愛から生まれる悲劇-3
Side/N
廊下の向こう側から、真っ赤な顔をして走ってきた実沙希は、ゲームに出てきそうなパステルグリーンの可愛らしい服を着ていた。
俺は風のように走り去っていった実沙希の背中を見送って教室に戻ると、女子生徒たちが相良に申し訳なさそうに謝っていた。
「やりすぎちゃったかな〜」
「まぁああいうことには慣れてないからね。でも褒められて嬉しくない人なんていないんだから、後で謝れば大丈夫だよ」
もうあの時以来、相良をまともに見ることが出来なかった。
時々目が合うとふっと柔らかく笑うが、その笑顔が本心から笑っていないのが手に取るようにわかる。
相良は俺の姿を見つけるとあの時聞いた低く通る声で話しかけてきた。
「篠田。廊下で桐生に会わなかったか?」
「すれ違ったけど」
「可愛かっただろ?」
獲物を狙うような鋭い視線が僕に向けられて身が竦む。
「別に。男が女の格好して可愛いとかキモイ」
「そうか?僕は可愛いと思ったけど。それにその発言はなかなか差別的だよ。気をつけなさい」
「っるせーよ」
相良の痛いくらいの視線を背中に浴びながら自分の作業に戻り、下校時間まで何も考えないようにひたすら働いた。
そして学園祭当日、実沙希のおかげかはわからないが俺のクラスのメイド喫茶は大反響で大忙しだったようだ。
俺は大道具担当だったため、当日はあまりすることは無く他のクラスの出し物を友達と回っていた。
人の出入りも減って来た夕方、俺は野球部の部室に荷物を取りに職員室の前を通ると、職員用のトイレの前で周りを警戒しているメイド服の実沙希を見つけた。
俺は気になって実沙希がトイレに入ったのを確認してから音を立てないように入り、奥の個室に入ろうとしている実沙希を個室へ押し込んだ。
「えっ!!・・・・ノブ!!!」
実沙希はひどくビックリしたような顔をして、胸の前で作っている握りこぶしが強く握られた。
「お前、こんなところで何する気だったんだよ」
「な、なにって・・・ト、トイレだよ!!」
実沙希は動揺しながら、俺を外に出そうと押した。
「ちょっと、出てってよ!漏れちゃう!」
「嘘だろ。これから誰か来るんじゃねーの」
一瞬目が泳ぐ。
やっぱり。
「誰も来ないよ!出てけってば!!」
必死で俺を個室から出そうとする実沙希の手首を強く掴んで顔を寄せると困ったような表情で抵抗するのをやめた。
「い、痛いよ・・・離して・・・」
「俺知ってんだぞ」
「・・・何・・・?」
俺はポケットから携帯を出して、あの忌まわしい記録を実沙希に突きつけると、どんどん顔が険しくなって下を向いて何かに耐えるようにフルフルと震えだした。
「なんでこんなことしてんだよ!こんな・・・こんな」
俺は言葉が続かなくなって、いつしか涙が頬を伝っていた。
俺は何で泣いているんだろう・・・
実沙希が
俺の実沙希が
こんなひどいことをさせられているから
俺以外のやつに
守られているから
くそ!くそ!
「くそっくそっ!俺の実沙希が!俺の実沙希が!」