地獄への階段-1
◇地獄への階段
Side/N
実沙希の異変に気付いたのはある日、赤い顔をしてトイレから出てきた実沙希とぶつかった時だった。
はぁはぁと肩で息をする実沙希は少し疲れたような顔をしていて、俺は心配になっておでこを近づけた。
ばっと勢いよく俺から離れる実沙希。
「な、な、なんでもないから!大丈夫だから!」
実沙希は走って教室へと戻っていった。
「なんだよ。心配してやってんのに」
小学校の時からか弱くて頼りない実沙希をずっと守ってきたという思いがどこかにあった。
高校に入り、いつの間にか俺と同じくらいの身長になっていた実沙希は、男臭い他の連中と比べるとなんとなく色っぽさが出てきて、だんだんと違和感を感じ始めていた。
教室に戻ると、何事も無かったように席について友達と話す実沙希のところにいくと済まなそうに僕を見上げた。
「さっきはごめんね」
「ああいいよ。それよりお前ほんとに大丈夫か?」
にこやかにうなずくのでさっきのことは気にしないことにした。
チャイムがなって担任が入ってきてホームルームが始まる。
「えーうちの学校は夏休みの前に二泊三日の研修旅行という行事があります」
クラスの親睦を深めるとともに学年全体でも仲良くなろうというものらしい。
八人の班決めをし、俺はもちろん実沙希と同じ班に入った。
そして研修旅行当日の夜。
俺はあの実沙希の違和感の原因を知ることとなる。
興奮で寝付けないクラスメイトが教師に怒られながらも、夜中を過ぎると静かに寝息を立てていた。
俺は不意に目が覚めてしまい急にトイレに行きたくなって、外にあるトイレに向かった。
用を足して静まり返った宿の廊下を歩いていると、風呂場に入っていく教師達の集団が目に入ってきた。
やべっ
咄嗟に隠れてじっと息を潜めていると、思わぬ言葉が聞こえてきた。
「実沙希、おいで」
実沙希?
皆で風呂に入りに行く時になって、熱っぽいからやめとくと言っていたはずなのになんで。
しかも教師達がたくさんいるのに一緒に入るのか?
俺の頭の中がはてなで埋め尽くされて混乱した。
「確かめるしかねーな」
俺はガヤガヤと人の声のする脱衣所に近づき聞き耳を立てる。
「ほうほう。これはこれはなかなかの上物ですな」
この皺枯れた声は教頭か。
「綺麗なピアスですね。あ、こんなところにも」
体育の伊崎だ。