ワルグチ-4
「ああ、あるけど」
「ちょっと付き合って!!」
「おっ、おいっ?!」
俺の返事を聞いた瞬間、ぐいっと力強く引っ張って走りだした。
何処に連れていくつもりだ、とよろけそうになりながら思う。
すっかり日が暮れて薄暗くなった校舎裏まで連行され、ようやく袖を解放された。
「海東、なんなんだ、いきなりこんな所に・・・」
「先生の・・・陸先生のあんな顔、見たくない」
「・・・はあ?」
伏し目がちで俺と目が合っていないが、息が上がっているのも手伝ってか、海東の表情は真剣そのものに見えた。
「陸先生、このごろなんか変だよ。授業中も窓の外見てるし、あまり元気ないみたい」
「そ、そうかな。別に変わった事は無いんだがなぁ・・・」
指摘された通り、自分でも授業に身が入ってないのは分かっていた。
しかし何故それをお前が心配するんだ、海東。
もしかして原因を聞き出そうとしてるのだろうか。
言えねぇ。それだけは。
(いやいやどん引きっしょ。顧問が電話で、お前の命日がどうとか、次会ったら最期とかさー)
つい何時間か前に笑いながら言ってた海東の顔と、今の鬼気迫る顔が同じ人間のそれだとは思えなかった。
こんな事になったのも、日比野があのタイミングで電話なんかしてきたせいだ。
・・・だが、俺にも落ち度はある。
出ない、或いはもう少し柔らかい言い方にするという選択肢もあった。
「陸先生はいつも優しいから、誰かの悪口言うのなんて・・・見たくない」
「かっ、海東・・・」
海東はきっ、と俺の目を見据えた。
「私っ!!陸先生が、好きだから!!」
・・・な、何て・・・?
俺が、好きだって?
「はあ、はあ、やっと言えた。ずっと、言いたかったんだから」
何故そう思い立ったのかは分からなかった。
海東は顔を真っ赤にし、さっきよりも更に激しく呼吸を繰り返していた。
しばらくして落ち着いてから、静かに口を開く。