父と妹の想い-5
「何処いくつもりなの。もしかして、あの人のところ」
「だっ誰よ?!知らない、適当な事・・・」
「何で隠すの。別に話してくれたっていいじゃん、妹なんだよ」
咄嗟に小夜は怜の両肩を押し、その場から逃げ出してしまった。
何故怜が勇志の存在を知っていたのかより、触れられた事の方が、今の小夜にとっては衝撃だったのだ。
「押すことないじゃん・・・痛ったぁ〜・・・」
実際には、肩はそれ程痛まなかった。
しかし、今まで喧嘩しても殆ど口でしかやり返してこなかった小夜が、手を出した。
それが精神的な痛みを増幅させ、痺れた肩を擦りながら思わず舌打ちしてしまう。
「ただいま、二回目だけど」
「お帰り」
家には怜しか帰らず、小夜が戻らなかったが、銀太郎は特に何も言わなかった。
以前も何度か突然黙って家を出ていった事があり、こういう時は戻るまで待つしかなかったからだ。
(でも、せめてもう少し話したかったな。やはり小夜は俺を避けている)
分かってはいたが改めてうまくいかないものだと思い、銀太郎は頭を掻いた。
小夜が自分に振り向いてもらうためには一体どうしたらいいのか・・・
それとは別に、怜も小夜に話があると言っていたのを思い出す。
「怜、あの・・・」
「ん?」
「小夜に話があるって言ってたがなんだ。教えてくれ」
「あーっ、いや別にね、お父さんには関係・・・・・・」
言い掛けたまま口を開き、目線をずらして考えていたが、
言うのを決意したかの様に口を閉じて咳払いをした。
「私の予想だけどね、お姉ちゃん・・・彼氏いるっぽいの」
「・・・・・・それで?」
「いや、それだけ。こないだ携帯見ちゃって、男の子っぽい名前があったから、本人の口から聞きたかったんだ」
普通の父親なら聞いた途端に落ち着きが無くなるだろうが、銀太郎は冷静だった。
寧ろ、小夜はずっと家に縛られていると思っていたのに、無事に人並みの青春を過ごせている事に安心した位だった。
だがその気持ち半分、寂しさや娘を取られそうだという嫉妬の様な気持ちもあった。
それ程気持ちが浮ついてはいないが、だからといって冷静なだけではない不安定な状態になってしまった。
「そういえばちょっと前から家で電話してて、俺を見かけると隠れる様になったな」
「・・・そうなんだ。私に対してもだよ」
怜は呆れた様に重い息を吐きながら、朝美の仏壇の前に膝をついた。
線香をあげ、りんを鳴らす手つきがやけに丁寧に見える。
「なんで隠しちゃうんだろ。家族に言っても、別に変なふうには言わないのにね」
背中を向けているため見えなかったが、銀太郎には怜が寂しそうな顔をしているのが伝わってきた。
普段から履いている下着の色すら父親に隠さない怜とは違い、自分の事は殆ど話そうとしない小夜を、銀太郎は心配していた。
(あれでもまだ小学生のうちは普通だったんだよな。いつからだ、全く自分の胸の内を明かさなくなったのは)