兄妹ペッティング-1
「う〜ん、これはもう動かないぞ。まいったなぁ。…真知、お前はどうする?」
「JRも両方だめなのね。…どうしょう。…お兄ぃは?」
私と真知子は途方にくれた顔をお互いに見合わせた。
ここはN市内のK駅。JRと私鉄・地下鉄が乗り入れている総合駅である。
台風による洪水警報が出たということで、定時より早く会社を出て地下鉄でここまで来たのだが、地元H市までのJR線はもう運転を見合わせていた。それなら…ということで私鉄の方に回ったが、やはり私鉄も電車は動いていない。豪雨で線路が冠水したという情報がテロップで流れていた。
呆然とした思いでそのテロップを眺めていると、誰かに後ろから袖を引っ張られた。
…振り向くと、そこに妹の真知子がいた。
妹の住居も同じH市内にある。6年前に地元で結婚して娘がひとり生まれているが、地方公務員としてまだ働いており、今の勤務地のN市まで私鉄で通っていた。
私と同じように少し早めに帰ろうとしたのだが、同じタイミングで足止めをくらってしまったようだ。
まだ台風は太平洋上にあり、この地方に最接近するのは夜中近いはずである。…ということは、今日中に電車の運転が再開される見通しはほとんどない。
タクシーという手も考えたが、線路が冠水しているということは、ほぼ間違いなく道路も寸断されている。つまり、家まで帰れる保証はないということである。
「この情況じゃあもう今日は帰れないと思った方がいいな。…オレ一人なら、いつものように適当に飲んでサウナかカプセルに泊まってしまうところだけど。…真知はそういうわけにはいかないよな」
「うぅん、私ももう泊まりは覚悟したわ。…でも、あまりそういう経験ないし。弱ったなぁ…」
妹は少し考え込む風情をしたが、顔を私に振り向けて言った。
「ま、ここでお兄ぃに会えたのはラッキーかな。…何とかしてくれるよね、お兄ちゃん!」
駅周辺のホテルはもういっぱいであろうと判断し、タクシーで少し市の中心部に戻った。
たぶんここなら大丈夫であろうと見当をつけたホテルに入る。
「ここでちょっと待ってて。…部屋代はオレがおごるよ」
真知子をロビーに待たせてフロントに向かった。そして、チェックインをする。
手続きを終えてから、戻って妹に言う。
「…真知、やっぱりここももういっぱいでシングルはとても無理だって。たぶん他のホテルも同じだから、一部屋だけ空いていたツインの部屋を取ったけど…いいよな?」
「…うん、いいよ。…でもお兄ぃと一緒の部屋で寝るのかぁ。なんだろう…ちょっと照れるなぁ」
妹は実際に頬を少し赤くしている。