Island Fiction第1話 -2
彼女を眺めていると、快感と苦痛の違いが不明瞭になってくる。
あえぎ声は悲鳴にも聞こえる。
バイブを突き立てる様は、自殺志願者が自らの手首にナイフの刃を当てるのと同義のようでもあった。
自慰行為と自傷行為の違いは紙一重なのかもしれない。
だからといって、彼女のオナニーは彼女が犯した罪への贖罪にはなり得ない。
彼女の罪は深く、そして重い。
わたしはチョコレートを頬張った。
ポケットに長い間忍ばせてあったので、しんなりとしていた。
噛まずに口の中で溶かした。
アザレアはわたしの指をそっと手に取り、先についたチョコレートを丁寧に舐めた。
そして、わたしの唇に自らの唇を重ねた。
「成長したわね」
と言って、アザレアはわたしの胸を下からすくうように揉んだ。
「皮肉のつもり?」
五年前に比べればさすがに膨らんではいるけれども、自慢するほどまでには至らなかった。
ましてやアザレアとは勝負にすらならない。
「褒めてるのよ。そのぶんなら、パイズリも出来そうね」
アザレアはバイブをわたしに握らせた。
「ちょうだい……」
彼女の言葉遣いには高校生のはつらつさも初々しさもなかった。
無理に背伸びをしているのではなく、自然と発せられた大人の言葉だった。
それはわたしの耳に心地よく響き、彼女の言葉は絶対なのだと思わせる説得力があった。
研究所跡の裏手にある丘を上がると屋敷がある。
特徴を徹底的に廃した鉄筋コンクリートの味気のない研究所とは打って変わり、中世ヨーロッパのお城そのものだった。
アザレアはこの屋敷のことをブラン城のようだと評したことがある。
トランシルヴァニアにあるドラキュラ城のモデルになったと言われる城だ。
わたしは今でもブラン城なるものを見たことがないので、似ているのかどうかはコメントしようがない。
ただ、壮美で堅牢な佇まいは吸血鬼の城に相応しいということは間違いない。
わたしは生まれて気がついたらこの屋敷にいた。
4人の娘たちが一つ屋根の下で暮らしていた。
みな同世代だった。
わたしたちは姉妹同然だった。
屋敷の娘たちはここへやって来た経緯の記憶がない。
誰も教えてくれなかったし、わたしたちも関心がなかった。
わたしたちは屋敷の外へ出たことがなかった。
テレビやラジオや新聞、雑誌、ネットといったあらゆる情報から隔離されていたから、外の世界を知らなかった。
お父様のお世話をすることが、わたしたちの務めであり喜びだった。
命とは誰のものであるか。
その問いへの答えは宗教的背景によって様々なように、わたしたちはお父様の所有物であり、わたしたちにとってお父様がすべてだった。
12歳になったある日、大勢の大人たちが屋敷に押しかけ、価値観を根底からひっくり返すまで、そのことに疑問を抱くことはなかった。
ここにいることが当たり前のこととして疑わなかった。