フィクション-1
ワンルームの麗しき我が家へと帰り着いた。
手のビニール袋には500ミリのヱビスが二本、あたりめがワンケース。
服も着替えずに、どこにでもある量産品のカーペットに胡坐をかき、コーヒーのシミがついた卓袱台につまみを置き、缶ビールのプルタブを起こし、倒した。
プシュッ、と音を立て炭酸が抜けるとラガービール特有の、枯れた樹木にも似た臭いが漂ってきた。
黄金色のソレで喉を潤し、リモコンでテレビを点けた。
プライドの置き場所を忘れてしまった成り上がりと、他人の謗り方を知らず、がなるだけの没落者が、画数が多く、認知度の低い言葉をワザワザ選んで、口々に罵り合っていた。ワザワザついでに辞書で誰もが知っている言葉に訳せば良いだろうに――。
つまらない。
押したボタンに連動し、画面が切り替わった。
品の無い男たちと媚びることしか知らない女たちが、目的地の消失した飛行機のように、漠然とただ、騒いでいた。中には高潔ぶっている者もいたが、それも品性という名のついた服を着こなしているだけで、中身はさして変わらないのだ。
つまらない。
また、違うボタンを押す。
――戦争映画だ。
荒廃した町並み。土の壁に舗装されていない道路だ。このセットだけでも制作に一週間は掛かったことだろう。
そこへ爆発が起きた。一発打つのに何万もするだろう、見事な爆発音と爆風。直後にこれ以上ないと言うほど的確な量と色とタイミングの煙が漂わされた。
場面が転じ、そのセットに似つかわしいナリをした、否応無く巻き込まれた弱々しい地元民役の母子が写された。
呆然とする母親。きっと、彼女に役者の才能は無いし、すでに売れることも半ば諦めている、そんな気の抜けたような言動だ。
打って変わって子役は良い。誰もが満点をつけるだろう、泣き顔と喚き声。母役の女性への懐き方も完璧だった。彼は将来、大物の役者になる資質があった。
また、映像が変わった。実にリズムの良いストーリーだ、飽きさせない。
そこにはハリウッドの脚本家ならば誰でも一度は綴ったことのある、絶対的な悪を象徴する独裁者然とした小太りの男が軍服姿で映っていた。
画質の悪い映像だ。カメラマンの腕も最悪だった。
しばらく後にその映画は終わった。
だがそこで、はた、と気が付いた。
お決まりのフレーズがお目にかかれなかったのだ。
『この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係がありません』