悔し涙が身に染みる……。-33
**――**
「こ・う・い・ち・く・ん!」
幸一が一人学食で昼食をとっていると、背後から目隠しをされる。
「なあに? 忍」
幸一はその手をとり、胸元へと導く。
「ああん、ばれちゃった……」
「こんなことするのはおまえだけだって……」
首にまとわりつく彼女の頭を優しく撫でる幸一。
「ね、今日は何時まで?」
「ごめん、バイトがあるから、そうだな、十時ごろまで無理かな?」
「んむ〜、寂しいよ〜」
「じゃあ、バイト終ったら行ってもいい? その代わり帰れなくなるけど……」
「だいじょうぶ! 絶対来てね!」
くすっと微笑む忍に幸一は名残惜しそうに手をきゅっと掴む。彼女も少しこまったような顔を見せるが、「あとで」と去っていく。
幸一はその手に残る彼女の温もりをかみ締め、残りのカツどんを食べる。
あの日以降、二人はソフトテニスサークルを止めた。
志保と顔を合わせづらいというのもあるが、一番の理由は二人の時間を作るため。
なし崩し的、寂しさを埋めるため、そんな理由で付き合うことに当初は後ろめたさがあったが、本気で好きになればいいと考え直した幸一は、忍を強引に退部させたのだ。
たまに達郎と話すこともあり、サークルの様子も聞く。
風の噂では宏美と和志も付き合い始めたが、聡と佐奈は駄目だったらしい。かといって栄治とよりを戻すわけでもなく、三人はギクシャクしつつ、サークルを続けているとのことだ。
そして志保もまだサークルを続けている。
達郎の話によると、明るくなったという。
たまに飲み会の席で話すと、じっと目を見つめてきて、どきっとすることが多いとか。
それがどういう変化なのかはわからないが、今の幸一には関わりのないこと。
彼は今日、大切な人と過ごす時間のほうが大切なのだから……。
もう二度と、悔し涙に蹲るわけにはいかないのだから……。
悔し涙が身にしみる……。 完
お題は見てのお帰りに・・・。から十一月のお題を借りて……。