其の温もり-4
小夜は、この映画が母親がいないという設定なのを知って、重くなるのかなと不安に駆られた。
しかし実際はわりと明るい作風で随所に笑える演出がされており、最後まで楽しんで見ることが出来た。
ラストの、父親と娘が手を繋ぐ場面は思わず涙腺が弛んでしまった。
(・・・現実の父娘なんて、ああいうもんじゃないけど)
そう思いながらも、小夜はそっと潤んだ瞳を拭ったのだった。
「どうだった、感動しただろ」
勇志はまるで自分の手柄の様に得意気に話し掛ける。
しかしすぐに腹の虫が鳴って、照れ臭そうにはにかんだ。
「あははは・・・何か食わないか、腹減っちまったよ」
「うん、私もっ」
ファミレスで食事を済ませて、二人はしばらく街を歩いた。
「ね、もっと強く握ってもいい?」
「いいよ。でもあんまり強くするなよ、小夜は俺より力があるから」
「そんな事ないもん」
きっと家事をこなしてるからだ、と小夜は聞こえない様に呟いた。
家にいる時の自分は、父親からも妹からも頼られている。
二人の様に誰かに頼ったり、甘えたりするという事は出来なかった。
母親としての役割を選んだのは自分だったけど、息が詰まりそうになる時がある−
(でも、勇志は違う。こうして手を握ってもいいんだ)
強く握ったら痛いよと言ったけど、それでも笑って、握るのを許してくれる。
(誰かに甘えられるのが、こんなに嬉しいなんて・・・)
初めて会ったのは、たまたま帰りに駅を通った時だった。
勇志が定期を落とすのを見かけて、小夜から声を掛けた。
それからまた何度か会って、交際が始まったのだ。
勇志は、今年大学生になったばかりで、見た目は気弱そうだったがしっかり小夜を引っ張ってくれた。
交際を重ねるうちに、小夜は次第に勇志に甘える様になっていった。
「小夜・・・うちに来ないか」
「・・・え・・・」
「言ったよな。一人暮らしだって・・・」
小夜は、自分の顔が熱くなっていくのを感じていた。
勇志も赤くなっていたけれど、その目はしっかりと小夜を見据えていた。
(そ、それって・・・まさか・・・っ)