其の温もり-10
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表紙の絵を無事に描き上げて緊張が解けたのか、銀太郎は横になるとすぐ鼾をかき始めた。
毛布一枚だけの父親が風邪を引かないように、怜は押し入れからもう一枚毛布を出して、銀太郎の体にかける。
「もう8時かぁー。そういや、今日は何も食べて・・・」
しかし、自分の腹の具合よりも大事な用事を忘れていた事に気付いた。
「やっば!!雨戸!!」
鍵はきっちり掛けてあったが、肝心の雨戸をまだ閉めていなかったのだ。
以前、戸締まりはただ鍵かけるだけじゃないからね、と小夜に怒られたが、また怒られるのは面白くない。
姉が帰る前に閉めてしまおうと仕事場を飛び出す。
すると、玄関に誰かの気配を感じた。すっかり夜になって暗闇に包まれていたが、誰かが座り込んでいるのが見える。
「・・・怜、居たの」
先に話し掛けてきたのは向こうからだった。
怜は怒られるのを覚悟したが、小夜の様子がいつもと違う。
「ご、ごめんなさい!閉めようと思ったんだけど、えっと、そのー・・・」
「閉めるって・・・・・・何を閉めるの?」
「だから、雨戸。鍵しか閉めてなくて」
不気味な位、姉は物静かだった。そして様子がおかしい。
怜の不注意に気付いても咎めようとする気配は無かった。
(もしかして遊びに行った友達と喧嘩して落ち込んでるのかも)
しかし、そういう類の静けさにも見えなかった。
やけに上の空で惚けている、真っ暗で表情はよく見えなかったが、どこか明後日の方向を見つめている、そう言った方が正しいかもしれない。
「ごめん、疲れちゃって。明日学校だし今日はもう寝るね」
「うっうん!おやすみなさいお姉ちゃん!」
何にせよ怒られないならさっさと寝てもらった方がいい。
小夜はゆっくりと腰を上げて自分の部屋に向かう。
姉がドアを閉めるのを見届けてから、怜は自分が何をすべきなのかを思い出した。
「一応雨戸は閉め・・・ん?」
爪先に固い物が当たり、見下ろすと開いたままの携帯が落ちていた。
自分が落としたのかと拾ったが触り心地がしっくりこない。どうやら、小夜の物らしい。
確かに様子がいつもと違ったけれど、携帯を置いていった事にも気付かない姉を、怜は珍しく心配した。
「・・・・・・」
だがその思いも湧いてくる好奇心に飲み込まれてしまう。
今なら姉の携帯をチェック出来る。
ずっと探ろうとしていた謎の答えを目の前にして、我慢出来るはずがない。
ばれたら謝ればいいという軽い気持ちのみで、戸惑いは無かった。
怜は考えるより先に画面を見ていた。