悪魔の微笑み-1
◇悪魔の微笑み
Side/S
研修に向かう新幹線の中で昨夜の出来事思い出していた。
実沙希に来週は研修で会えないことを告げると、急に寂しそうな表情になった。
もう僕無しでは生きていけない。
そんな悲しげな表情だった。
こんなに必要とされているとわかると愛しくてたまらなくなる。
僕は「自分がいないと生きていけない」そんな存在を求めていたのかもしれない。
「可愛い子ですね。彼女ですか?」
昨日撮った実沙希の写真を見ていると後ろから同じ学校の女教師に声をかけられた。
先日も廊下で僕の至高のひと時を遮ってきた女だ。
「結城先生も研修ですか?」
「ええ。行く予定の先生が風邪を引かれて急遽」
「そうですか」
僕はわざと話を終えるように切ったのだが、女はしつこく僕に話しかけてきた。
どうやら僕に好意があるようだ。
「相良先生は今夜お暇ですか?」
「研修が終われば特に予定は」
「良かった。研修先が私の地元なんですよ。軽くご飯でもいかがですか?」
女は少し上ずった声で甘ったるく誘ってきた。
お前がその気なら応えてあげるよ。
僕は思いついてしまった企みに思わず口元が緩んでしまったのを下を向いて隠した。
「よろこんで。あ、ちょっと電話を。失礼します」
僕は新幹線のデッキに移動し、あるところへ電話をかける。
「ご無沙汰しています。この間は楽しい時間をありがとうございました」
電話口から低い声が聞こえてくる。
「ちょっとお願いがありまして。えぇ。女性のお相手をですね・・・」
僕を好きになったことを後悔するんだね。
「軽く社会復帰できない程度にお願いします」
日程と場所を決め、僕は電話を切った。
これから巻き起こる彼女の悲劇を思いながら、あっという間に通り過ぎてゆく景色を目で追っていると突然景色が消えて一面が黒くなった。
ごーーーっという低い音と自分の不敵な笑みが窓に映りこんだ。
これから一生消えない記憶を残してやる。
長い長い研修がもうすぐ終りに近づいたある日、僕は彼女を打ち上げと言って食事に誘った。
一見すると割烹料亭のような和風の店に入る。
入り口には和服の女将が仰々しく三つ指で出迎えてくれた。
先に女を席に着かせて、廊下で電話を掛けていると女将とすれ違った。
女将は僕の耳元で囁く。