襖の向こう-7
父親の本当の職業を友達には言えず、いつも他の言葉を使って誤魔化していた。
他の誰かに秘密を知られたくないという思いが、彼女の心に壁を作っていたのだった。
最初は他人にしか隠し事をしなかったが、次第に踏み込まれるのを煩わしく思う様になり、家族にも胸の内を明かせなくなっていった。
最近になってようやく友達に隠し事をしない様になってきたが、家族への接し方は未だに変えられない。
「お姉ちゃんここにいたんだ」
「きゃ?!れ、怜、ノックくらいしなさい!」
「だって、まさかいると思わなかったから」
小夜は突然現れた怜に驚き、携帯を落としそうになった。
怜は煎餅を噛りながら隣にしゃがみ蝋燭に火を点け、線香を近付けた。
「こら、食べながらやるんじゃないの。非常識よ」
それに答えず線香を突き刺し、りんを小刻みに鳴らす。
軽く手を合わせてから、もう一度話してきた。
「誰と電話してたの」
「別に誰だっていいでしょ」
「・・・・・・友達?」
尋ねる口元が厭らしく歪んでおり、明らかに違う答えを期待していると小夜は思った。
身につけている黒のフード付きのトレーナーの下から、性的な臭いが鼻の奥を刺激してくる。
「あんた、お風呂入りなさい。臭うわよ」
「ねえねえ、いつから付き合ってんの?」
「だから友達だってば。ほら、早くしなさい、じゃないと夕ご飯抜き」
「それずるいよ。分かった、じゃ言うとおりにする。したくないけど」
小夜にべえっと舌を出し、憎らしく笑いながらその場を後にする怜。
(ああして見ると、まだ子供っぽいんだね)
妹は・・・既に大人への階段を登っていた。
自分が知らない事を知っている、もう体で味わっている。
内面では自分よりも大人なんだと思っていた。
なので、年相応の反応や仕草を見ると、自然と安心するのだった。
(・・・ばれたら絶対お父さんにも伝わるよね。隠し通さなくちゃ・・・)
携帯の着信履歴を見て小夜は口元に力を入れる。
「お姉ちゃん石鹸ないよー!どこー?」
携帯を握り締めて、やれやれと溜め息を吐いた。
(洗面所に買い置きがあるって言ったじゃない。話ちゃんと聞いてないでしょ)
わざわざ近くで言うのも面倒だったが、もう一度声を聞きたい気分でも無かったので、重い腰を上げた。
−私は母親の代わり。
怜と、父親にとってはそれだけ。今までずっとそうだった。
変わらない・・・きっと
〜〜続く〜〜