「闇に咲きぬ」-2
長くてきれいな黒髪。いつもは上げているが、就寝時であったから今は下ろしている。
白い肌も、細い身体も昔のままだった。
そして、抱きしめられて気づく姉から香るほのかな香。私は身体中の血が沸き立つ感覚を覚えた。
更に白い襦袢越しに感じる柔らかい胸の感触に、私はたまらなくなって袂から手を入れようとした。
が、
「焦ったら駄目よ。がっついたら駄目。女の子は優しくして欲しいの。」
私の手は優しく制され、姉が私の唇を優しく奪う。
「んむっ!?」
突然の攻撃に目を丸くしたが、優しく唇を吸われたり甘噛みされたりするうちに姉に身を任せる気になった。
ちゅ…くちゅ…ちゅる…ぷちゅ…
口づけは初めてではなかったが、こんな脳髄がしびれるような感覚は初めてだった。
くちづけに夢中になっていると、姉の手がすっと伸びてきて、私の服のボタンがは上から一つずつ外されていった。
片手で器用にボタンは外され、私は上半身を姉の前に晒す。
「竜之介の体見るの何年ぶりかしら…男らしくなったわね…」
姉は目を細め、私の胸に頬をあてた。
「脱がせて…」
「う、うん…」
私は震える手で姉の帯をといていく。手がそんなだったから、随分時間がかかったが、姉をは黙って私に体を預けていてくれた。
ようやく帯を解き、襦袢の前を開く。姉は下着をつけていなかったので、前をはだけた時点で、両の乳房も、薄い茂みも露わになった。
私は姉の首の後ろに手を回し、ゆっくり敷きっぱなしの布団に押し倒す。
上から唇を重ね、裸になった胸を密着させる。姉の体はひんやりと冷たかった。
「竜之介…暖かいね。……下も、脱いでごらん。」
私は言われるままに、しかし躊躇しながらズボンと、下着とを脱いでいく。
ついに姉の前に全てをさらけ出した。昔風呂に入れてもらっていた頃とは、見せる状況が違いすぎた。
「姉さん…恥ずかしいよ。」
「私もよ。」
姉は微笑んでそう切り返す。そして、やんわりと私の逸物を握ってきた。
「くっ…う…」
「竜之介…固いわね…私が知らない内にここもこんなに…」
「竜之介、横に来て。」
「え?あぁ、うん。」
私が姉の横に仰向けになると、姉は私に馬乗りになった。
「竜之介、あなたに見て欲しいものがあるの。私のね、覚悟。あなたが私の体ごと引き継いで頂戴。いいわね?」
いつのまにか姉の顔が引き締まっている。私は情欲の世界から現実の世界へと引き戻された。
私はもう一度自分の覚悟を確認し、力強く頷いて見せた。
「じゃあ…」
そういうと姉は私に跨ったまま私に背を向けた。そして、唯一姉の体を隠していた襦袢をゆっくり脱いでいく。
ぱさり、と音を立てて衣は肩から抜け落ちた。私は姉の真っ白な背中を想像した。
しかし、…そこには、…姉の背中には、およそ姉からは想像のつかない光景が広がっていた。
姉の背中いっぱいに、広がるのは、美しく、勇壮な入れ墨だった。
色鮮やかな真っ赤な牡丹の花が五つ。そして、その中からこちらを睨む一匹の大虎。
花の配置も、虎の描写の細かさも全ては芸術品だった。
私はその美しさ、迫力に神々しさすら覚え、息を飲んだ。
「これはね…」
姉が静かに語りだした。
「私が小学校を卒業したときに彫ったのよ。柳田玄斎ていう有名な入れ墨師でね…私が大人になったときに丁度いい大きさになるように、って計算して彫ってくれたの。……昔は虎も不細工だったのよ。ふふ…潰れた顔してたわ。」
姉はこちらに体を向きなおし、言葉を続けた。
「私が小学校卒業するときにね、お父さんに、お母さんはもう高齢で出産は望めないからこの組を継げ、と言われたの。小学生ながらすっごく悩んだけど、結局…私は継ぐことを決めた…同時に、女であることを捨てた。…これは私の覚悟の標だった。……でも、竜之介が生まれた。お父さんは手放しで喜んだわ。
『私に組を継げ、と言ったじゃない、私は覚悟を決めて、女を捨てたのに。』
そう言ったけど、男が生まれたなら別だ、の一点張りで私のことは……」
姉はいつのまにか涙を流している。
「…でもね、今はあなたが生まれてきてよかった、と思うの。あなたは何も知らずに私を慕ってくれたし、どんどん男らしくなってきた。あなたは、私以上に、緋川組を継げる男にきっとなってくれる、そう思うの。」
「だから、竜之介…私の心を、覚悟を、もらって頂戴…そして、私を普通の女にして頂戴…」
私は気がついた。姉は、処女なのだ。
考えてみれば当然かもしれない。姉は中学を卒業してからほとんど外界と接していない。交流のある男といえば、組の者くらいだ。義理堅い彼らは姉に言い寄ることすらしないだろう。
全てを私に託してくれた姉に、恥をかかせることは出来ない。