オカシな関係3-1
俺は、ファミレスでフォークにさした唐揚げを食っている美佳ちゃんを見た瞬間にコイツだ。と、思った。
仲は良かった。でもそれは小学校の時の話。
親の転勤で、俺はこの街を離れた。
元々、家はこの街にあり、親父もこの街に戻った。このまま、定年までいられるのかは不明らしいけど。
俺はこの街に店を出した。『ふわり』という、ケーキ屋。
ただいま順調に借金返済中。
評判は良いらしい。まあ、俺の耳に入ってくるのは5割ぐらいで聞いておいた方がいいか。
本当に偶然だったけど、幼なじみの圭ちゃんに会った。
それで、美佳ちゃんのことを聞いた。
話しかけた美佳ちゃんは俺のことなどすっかり忘れていて。
ひどいなあ。
でも、あきらめないもんね。俺の運命の女(今度こそホンモノの筈)。
毎日お菓子を作って渡した。
チビだし、カッコよくないし。
俺が得意なことってそれぐらいしかない。
とても、楽しいんだ。そうすることが。
あれもこれも作ってみたい。渡したいものがどんどん浮かんでくるのだ。
俺は美佳ちゃんの心になんとか上がり込み、彼女の中に居場所を求めた。
そして、美佳ちゃんは俺のコイビトになった。
だけど、美佳ちゃんのトラウマを知ることにもなった。
セックスを異常に怖がっている。
俺は迂闊に手を出せなくなってしまった。
ずっと一緒にいたいから。
もう嫌だと言われたくないから。
ただ、柔らかな身体を抱き締めて彼女にキスをする。
怯えて震えていた彼女は少しずつ俺を受け入れてくれている。と思う。
敗戦するたび俺はコーヒーを淹れてきては彼女を落ち着かせる。
というか、『はい!そこまで!』となったら一旦部屋を出るしかない。
欲求はあるから。
正直しんどい。
でも辛いのは俺よりも寧ろ彼女の方じゃないかと思っている。
自分自身を責めている。『ごめんね』。そんな顔をする。
そんなの見たくない。
さっさとやらかそうか。
そう考えたりもする。
ダメだ。俺は美佳ちゃんを失いたくない。
俺は欲張りだ。
身体も心もまるごと欲しい。
だから、どうにも動きがとれなくなってしまっている。
俺と美佳ちゃんの生活時間は真逆過ぎて、なかなか会えない。
ファミレスのランチを食べているのは知ってるから、相変わらず、そこで菓子を渡す。
美佳ちゃんには俺の家のカギを渡してあるから、部屋に来れば会えなくても証拠を残してくれる。
仕事から上がると、晩ご飯が作ってあったり、メモ書きが机の上に残ってたり。
『5月12日に全部あげるよ』
メモにはそう書いてあった。
3日後、5月12日は俺の誕生日だ。
それはつまり?
俺には解禁日としか取れなかった。
いきなり、あの状態が治ったとは到底思えない。
このままではだめだと、彼女は覚悟を決めたのだ。きっと。
小躍りするには不安要素が多すぎて。複雑だった。
心を欠いてしまった美佳ちゃんを俺は上手に愛せるだろうか。
もっとケッテイテキな事態になったりしないだろうか。
メモの短い文面を何度も読みながら、ハギの煮付けとほうれん草のお浸しを食った。
味はよく分からなかった。