今日の朝日が身に沁みる-2
護身用に持っていたバールのようなものを振り回し、警官達を威嚇。その際、周りに居た奴も巻き添えくらっちまったが、かまうこたあねえ。どうせ一人殺してるんだ。なら二人三人道連れにしても問題ねえだろ? どうせ死刑なんて早々ないんだ。今はインゲン派弁護士や国際女性? とかのおかげで死刑廃止に向かってるって聞いた。どうせこの先外に居ても衣食住に困るんだ。ツナギ着て臭い飯を食わせてもらったほうがいいもんさな。
ひとしきり暴れたんだが、多勢に無勢。俺は取り押さえられ、地べたに押し付けられた。
その後のことはよく覚えてねえな。たしかパトカーに乗せられてどっかに運ばれて、そんで次の日だっけかに実況見分やらなんかあって、裁判は……、なんか俺は蚊帳の外のまんま、偉そうなおっさんが「死刑」とか言いやがったのを覚えてる。
それだけはさすがに誤算だった。まあ、この先生きていたってどうしようもねえし、最後にいろいろしたんだからいいかと、抵抗はしなかった。
そういやインゲン派を名乗る弁護士がやってきて、酵素がどうのとか言ってたが、あいにく化学は得意じゃないから断った。
でまあ、今は悠々自適な死刑囚暮らし。最初の頃こそいつノックされるかビビッてたが、もうなれっこさ。人間いつ死ぬかなんてわからない。
俺がこうして鉋をふるっているときだって、外じゃ交通事故やら自殺で死んでく奴がいるんだろ? なら、俺もそいつらも一緒じゃないか?
だが、状況が一変したんだ。
法律が変わったらしく、首吊りが廃止になったとか新聞で読んだ。
つまり俺は『元』死刑囚になったんだろう。
あいにくここを出られる見通しはないけどな。
まあ不自由でも慣れれば快適な暮らしが約束されてるんだ、出たいなんて思わない。
だが、死刑になる奴がいなくなったら、この刑務所は一杯になるんじゃないのか?
単純に死ぬ奴が減って入る奴が増えるんだし、隣の奴だって俺が入ってすぐに来たんだぜ? まさか相部屋とかなんのか? やだなあ、ストレスで胃に穴が開くっての。俺の唯一の自慢である健康を奪わないでくれよ?
そんなこんなで日が暮れる。
午後四時に集団で風呂に入る。
囚人にそんなものが必要なのか知らんが、バカな奴が囚人にも人権をとか抗議してくれたおかげらしい。まったくインゲン派さまさまだよ。
午後五時にわびしい飯を食い、その後消灯時間までは自由時間。といっても三十分も無い。せいぜいセンズリする程度だが、紙も貴重だからそうそうできない。おかずは……最後に抱いた女ぐらいか?
「消灯!」
刑務官の声が響き渡り、一斉に明かりが消える。
規則正しい生活というのは生に合わないが、習慣というべきか布団に入るとすぐに眠くなる。
明日も五時起きだ。飯は麦飯に目刺に豆腐に味噌汁。青菜はなんだろうな。
酒もタバコも女も無く、自由に会話も出来ないが、寝床も飯も暇潰しや運動もできるわけで、もしかしなくとも路上生活よりもずっと質がいい。
体脂肪やら難しいことは知らないが、ついこないだあった健康診断じゃ、ほぼ正常、やや尿淡白と言われた程度だ。ついでに肝炎やらHIV検査もされたがオールグリーン。何が緑だよって思ったが、いたって健康らしい。自慢といえば視力だけだった俺だが、健康優良とされるとなんか誇らしい。この前臨時で血液検査をされたが、多分正常だろう。日々規則正しい生活をして、運動をして、栄養のある食事をしているんだからな。
ま、誰に自慢できるってわけじゃないが……。