#01 邂逅-20
「いや、酷いな、ソレ!つーか、許可すんなよ、学校!ズサンすぎるぞっ!」
「許可の判子の内の一つを押したのはきみの姉君だけどね」
「うっかり、バカ姉!」
「まぁ、それも学業優秀な俺だからこそ、だけれど」
「うっわ、ムカつくな。ソレ言いたかっただけだろ?」
私はジト目を送ったが、岐島は微塵も堪えなかったようだ。
きっと、目の前で知らない人間同士の殴り合いが始まっても一瞥しただけで立ち去っていくタイプなんだ、コイツは。
これ以上、言い合っても無駄だろう。仕方がない。
「それで――」と私は続けた。
「なんで、私を助けたんだよ?」
「別に。大した意味はないよ。気まぐれさ」
「ほぉー?」
「なんだい、その回りくどい笑みは?」
「いやー、皐月さんが言うには、仙ちゃんが鷺ノ宮さんに頼みごとなんて初めて!、らしいんだわ。んふっふっふっ。これってどゆこと?」
「……気まぐれさ。それに、あの高崎は問題が多くてね。親のつながりで客として、もてなしていたが、まぁ、そろそろ面倒ごとになりそうだった。そんなときにきみが高崎と一緒に店に入るのを見かけてね。それだけさ。ところで、高崎からはなにかされなかったか?」
「おいおい、岐島君よぉ〜。話しをずらそうとしても無駄だぜ?それとも、そんなに私の身に安全が気になっちゃう?」
「……。うん、きみの言いたいことは分かった。どうやら、きみは随分と自意識過剰なようだね」
「んだと、クラ!?」
「――くっくっ」
「っ?」
私は鼻白んだ。
『自意識過剰』という単語に一歩詰め寄った私へ、この能面ヤローが突如、吹きだしたのである。
いや、ビックリした。岐島がこんなに笑うとは……。
道端の地蔵がいきなり、パラパラを踊り出すのとどっこいの驚きだ。
未だに、「くっくっくっ」と発作的に、喉の奥で笑う岐島につられ、私も自然と笑みが浮かんできた。