#01 邂逅-13
「んじゃ、お・れ・か・ら……」
一号が私の顎を右手で上に向かせると顔を近づけてきた。
酒臭い吐息が鼻につく。吐きそうだ。
身をよじるが、二号に背中を押され、結局、一号に近付く格好になってしまった。
しかし、まぁ、私もそこそこは悪運が強いんだろう。
高崎の唇が私のソレに重なろうとする、その瞬間――、
――ビィーーッ!カチャン…………
「っ!?」
扉から電子音が響き、直後に扉が開かれた。
一号も二号も三号も、私もその扉の方を見る。
「……失礼しますよ?」
そこには初老の男性が立っていた。
身長は私よりも低く、顔のシワのわりには白髪一つない黒髪を後ろへと撫で付けている額の広い男だ。
眉は太く、鉤鼻で、エラの張った顎筋を持っていたが、柔和な笑みを称えた口元と瞳でその強面を中和し、余りある穏やかな表情をしている。
服装はイタリア製の高級スーツ(偶然、父のモノと同じだったために分かった)の上下にワニ革の靴。胸ポケットからは紫色のハンカチが覗いていた。
そして、男の背後には二人の黒スーツが腕を後ろに、背中を向けて立っている。
黒スーツの一人は背の高い、長髪の男、もう一人は肩口で赤毛の頭髪を切り揃えた女性だった。暗いこともあり年齢は両者ともある程度、若いことを除けば、不明だ。
突然の闖入者を前に呆気に取られていた高崎だったが、我に返るとその男性をにらみつけた。
「――だ、誰だてめぇ!」
「私は、この店の持ち主……つまり、オーナーです」
男は手に提げたカードをチラリと見せた。
マスターキー。って、ことはさっきの電子音はロックが解除された音だったのか。
いきなりのオーナーの登場に鼻白む一号。