#01 邂逅-12
「……どけよ」
「ごめんね〜。ムリ」
「ちっ……バカだな、おまえら」
私は一歩、踏み込むと二号の右手を取り、投げようと技をかけた。
これは合気ではなく、柔術だ。祖母から幾つか技を教わっていた。
相手の重心を支点に上下を反対にし、頭から床に落ちるって寸法である。
次の瞬間には当然、二号がこの歩き心地の良いカーペットにひっくり返る像が私の脳裏には映し出されていた。
しかし、その未来は訪れなかった。
二号はフッ、と重心を低くすると私の技を無効にしやがったのだ。
おまけに右手を掴んだ私の腕を取り、逆に捻り上げてくる。
「……、……!んのやろ!」
「ああ、止めた方がいいよ。無駄だから。そいつら二人共、格闘技の経験者だ。空手とアマレス。んで――」
脛を蹴ったり、肘内をしようとしたりしたが、全部、先手を取られ体勢を崩されてしまい、二号へは届かなかった。
そんなバタつく私へ、起き上がった一号がヘラヘラとしながら歩み寄ってくる。
そして、シュッ、と私の左頬を右拳で掠めた。
「俺はボクシング。萌ちゃんはなんだい?柔術か、合気道?んま、この人数差と体格差じゃ意味がないけどね〜。くくっ……」
ペロリ、と唇を舐めると獣のような表情で一号は嗤った。
下卑た笑みだ。一目、見ただけでその顔に拳を叩きつけたくなるような顔である。
だけど、いまの私の両腕は二号に掴まれ、身動きすらも自由に取れない状態だ。
――しまった。こいつらを舐めすぎていた。
チャラい見た目から、いざとなればどうとでもなるだろう、と思っていたんだけど、考えが足りなかった。
まさか、全員が格闘技経験者だったとは――。
そりゃ、一人だったらなんとか、ならないでもないが、三人は……ムリだ。
私の胸中は後悔と絶望の念で一杯になった。
お利口さんの姉へ当てつけ代わりにこいつらに付いてなんて行かなければ良かったんだ。
この部屋は手洗いに行ったときに気付いたが、防音設備は完璧だ。しかも、高級クラブの個室、監視カメラなんてものはないに決まっている。
それにこいつらだって、こんなことは初めてじゃないだろう。事後処理だってお手の物のはずだ。
どうせ、こっちを泣き寝入りさせる腹積もりだろう。