契約-1
◇ 契約
それからお姫様抱っこで風呂場まで連れて行かれ、一緒に湯船へと入った。
バスタブいっぱいに張ったお湯が一気に流れ落ちる湯船で二人して疲れを癒すように肩まで浸かる。
人肌より少し熱いくらいのちょうどいい湯加減で、今までの緊張感が一気に抜けていくのがわかった。
ピチョン・・・
天井から落ちる露の音が心地よく反響する。
彼は先ほどと同じように僕の後ろに回り、少し湯船から出た僕の肩にお湯をかけている。
「実沙希は今の生活に満足してる?」
「う〜ん・・・仲の良い友達はいるので学校生活は楽しいし、特に彼女が欲しいとも思わないので不自由はしてないです」
「そうか。日常生活は満足してるんだね。良い事だ。でもそのほかのところで何か物足りないと感じていない?」
本当に驚いた。
彼はなんでこんなに僕のことが分かるのだろうか・・・
確かに物足りなさを感じていた。
この数ヶ月、いくら自分の特異な性癖を見出しても、最初こそ次の日体が重たくなるほどの興奮と激しさはあったけど、いつしかもっと、もっとと貪欲に求めている自分がいたのだ。
そして今回のこの充実感。
これを求めていたのだと実感した。
「・・・・はい。物足りないと感じていました」
「うん。じゃ提案があるんだけど」
そう言って僕の体の向きを彼と向かい合う形にした。
メガネを外した彼は、少し髪の毛が乱れていて年齢より若く見える。
僕を見つめながら優しく微笑んでいた。
「僕のものになってくれないかな」
「?」
「僕が君の全てを満たしてあげるよ」
「・・・僕の・・・全て・・・・・・・」
「そう。今まで埋められなかった部分を僕が埋めてあげるよ」
「あの・・・・・・・・えと・・・・」
「まぁ突然こんな事言われても困っちゃうよね。返事はすぐにとは言わないよ。それにここから先はお金は発生しなくなるしね」
「少し、考えてもいいですか・・・」
「もちろんだよ。ゆっくりでいい。僕にとって君みたいな存在はもう現れないと思っているんだ。僕の埋まらなかった空間を君が埋めてくれる。だから待っているよ」
風呂から上がり、行きに着てきた服に着替えて帰り支度をしていると、今まで見たこともない枚数の一万円札が出てきた。