アップルパイ-4
「・・・ごめんなさい」
「美味しかったよ、耕太君」
「最初にしちゃいい感じだよ」
二人とも気を遣ってくれたのに、俺は感謝出来なかった。
その日の帰り道、俺はどんよりとした気持ちで足取りが重かった。
簡単に出来ると思っていた自分が、急に情けなくなって・・・
「お帰り、我が弟よ」
「・・・・・・・・・」
姉ちゃんを無視して部屋に戻ろうとしたら、呼び止められた。
「作れ、アップルパイ」
「・・・・・・嫌だ」
「いいから作れ。待っててやるから」
さっさと寝たかったが、行き先を塞がれて仕方なく作る事にした。
何のつもりか知らないがそれで気が済むなら好きにしてやるか。
幸い材料がまだ残ってたので、これで使いきれるな。
しばらくして、アップルパイが出来上がった。
「・・・・・・」
姉ちゃんは無言でそれを噛り、咀嚼している。
音はサクサクしているので今度はまたうまくいったらしい。くそっ、店で出来なきゃ意味ないのに・・・
「・・・・・・・・・」
何も言わなかったが、姉ちゃんは静かに笑っている。
「何か、言えよ」
「同じか。血は争えないってこういう事かもね」
「はあ・・・?」
「耕太、これさ、好きな人に作ったんでしょ」
なっ・・・?!言ってないよな、姉ちゃんには。
でもなんで分かったんだ、おかしいぞ。頭の中を読まれたとしか
「やっぱそうだ。覚えてない?私が初めてアップルパイ作った時のこと」
そういや、あれは何年前かな。
学校から帰ってきたら姉ちゃんが料理してた。
鼻歌なんか歌ってやけに機嫌が良くて、絶対何かあったと思ったがめんどいから何も聞かなかったんだ。
翌日冷蔵庫にアップルパイの欠片が入ってて、食べたら・・・不味かった。
「そ、それがなんだよ。もう気は済んだだろ、寝るぞ」
「もっと話そうよ。あの後さ、私寝込んだじゃん。あれって実はさ、今だから言えるんだけど・・・」
「知らない。これ以上付き合わせるのかよ、悪いけど疲れてるんだ。また明日な」
姉ちゃんが何を言いたいのか、鈍った頭じゃ分からない。
早く寝たいんだよ、もう本当に勘弁してくれ・・・