厭世観-1
「何かつまんなさすぎ」
可憐はふいと顔を背けるようにして、何に対してでもない、何か大きなものに向かって吐き出した。
空には入道雲。もくもくとした雲に自身の心象風景を投影しながらじっとしばらく見つめていた。それに対し雲はおかまいなしにふわふわと立ち込めていた。
可憐の友達、由宇は「考え過ぎよ。あーそんなことよりアイス食いたい」。パッパッとスカートの裾を払いテトラポットから降りた。
波打ち際にたつ可憐。海を前にするとちっぽけな自分が広がる。可憐は友達こそいれ、心の病を患っていた。この眼前の海で自殺未遂もした。人間は海から生まれた。だから私も元の状態に生まれ変わりたい。哺乳類でなくても人間でなければ何でもいい。動物になりたかった。畜生根性丸出しの血が滴るように獲物を捉える動物になりたかった。事実、可憐は心の中で自殺をし獣と化していた。出血する自分を見ると生きてる証を見れた。何回も何回も出血して血なんかなくなればいい。自分には黒い血が流れているようにも思えた。心の中でお葬式を済ませ皆がすすり泣く姿を想像して笑った。こんな変な考えは由宇にも言えない。由宇は普通の女の子だから。
私は普通じゃない。獣のように周りの人間に悪意を抱いてる。人間を食べて自分の血肉にしてやりたい。そこまで思った。可憐は自分を表現するのが苦手だった。だからこんな獰猛な生き物が憑依しているのだ。甘い甘い血を吸って皆が自分になればいい。様々な人格を味わえる自分になれる。可憐は抑うつ気分に苛まれることがよくあった。大抵そういう時世間に唾を吐いた。
「私帰るわ」突然可憐は切り出した。
「急にどうしたの?まぁいいけど」由宇は言った。
「また明日」くるりときびすを返し可憐はまだ妄想の世界にいた。
世の中は仮の世界だと誰かが言った。バーチャルなら何故出血したら痛いのだ。死にたくても死ねない。人を殺したら私の中にあるその人と同じ人格もなくなるかしら。逆に人格が息を吹き返すかしら。
そうしたら嫉妬深い私は殺さなきゃならない人間が何人もいる。心は自由だ。心の中で抹殺しよう。まずあの人を…