龍之介・六-6
「今日はもういいよ・・・」
殆ど唇を動かさずに喋った様な、隙間からぬるぬると漏れる声だった。
へえ・・・意外ね。私が寝たのを見計らって、起こしたところを食らい付く、そんな展開に怯えてたのに。
「その方が消化するのも早いだろうから、私は・・・別に、嫌じゃないよ」
誰か他の人が私の口を借りて喋ったのかと思ったけど、そうじゃないらしい。
紛れもなく私自身が龍之介を誘っているのだ。ここには女は私しかいない。
「いいから、寝なよ。ちゃんと休む時は休むんだ・・・」
ぽんぽん、と私の後頭部を叩く手がざらついていた。
お弁当を何十個も箱に入れてお店や会社に運ぶのを毎日繰り返してるから、鍛えられた皮膚が硬くなるのは当然か。
胸板も腕も、随分逞しくなったんだね、龍之介。
元々部活してたから筋肉質だったのに、まだこんなに鍛えられる部分が残ってたんだ。
「ぐぅ・・・すー、んん・・・ぐぅ、すー・・・」
なかなか眠れない私を置いて早くも鼾混じりの寝息を立てている。
眠る事が出来ないのは、別に鼾が気になるからじゃない。
抱き締められてるのが苦痛な訳でもないし、かといって今更ときめいている訳でも無かった。
(だめぇ・・・何考えてるの、私・・・)
沸き上がって止まろうとしない欲望に戸惑う。
さっき神社でお願いした時も、無意識に頭に浮かんでいた。
龍之介は優しくなった、それは喜ぶべきはず・・・
でも、抱かれている時に何故か物足りないというか、満たされない思いがあった。
どうしてだろう?もう、玩具みたいにされるのは嫌なはずなのに、思い出したくない程辛かったはずなのに。
(もっと・・・激しくされたい、他に何も考えられないくらい・・・)
私の奥の方が囁いてくる。
今こうして温もりを感じながらも、体は龍之介の暴力に近い愛撫を求めていた。
いや、それは心がそうであって体は拒否しているのかも・・・
(私、一体どうしちゃったんだろう。いざされたらとても嫌なのに、それでも・・・望んでるみたい・・・)
その一方で今の程々な行為も嫌いじゃない。
私は、どうしようもないくらい我が儘だと思う。
そもそも、龍之介にそういう事を教えたのは私だ。
もしもあの時、疲れ切った龍之介に何もしなかったら、今とは違う未来になったのだろうか。
でももう時は戻らない。
自分で選んだ、そうやって受け入れるしかない。
「龍くん・・・起きてる?」
すやすや眠る弟を見つめ、そっと唇にキスをした。
私は強くない、龍之介がいなきゃ潰れてしまいそう。
離れられない、きっといつまでも。
〜〜続く〜〜