龍之介・六-4
(・・・・・・・・・)
「何をお願いしたんだ?」
人混みから解放されて一息ついたら、龍之介が聞いてきた。
「龍くんは?」
「交通安全。仕事で使うから免許は綺麗なままでいたいしね」
「お休みでもちゃんと仕事のこと考えてるんだね」
「葵は何をお願いしたんだよ」
私は・・・・・・
「教員採用試験に受かります様にってお願いしたの」
「へえ。一応考えてたんだな。なんにも考えてないかと思った」
・・・試験のお願いは嘘じゃなかった。でも私はそれとは別に全く違うお願いをした。
これをもし龍之介が知ったらどう思うだろう。一瞬は喜ぶだろうけど、すぐに私を変な目で見るに違いない。
「さあ、もうやるべき事は終わったぞ」
鼻の下がみっともなく伸びている。
龍之介がやりたい事はこれからなのね、昨日、いやそれどころかさっき迄あんなに張り切ってたくせして。
「ぁ・・・!」
人混みから離れて、駐車場の裏で私のうなじにキスをしてくる。
「もぉ、龍くんの頭の中ってそれしかないの?」
「そんな事無いぞ。でも9割は当たってるかな」
「ほぼ全部じゃない。あっ、こらっ、駄目、誰か見てるよぉ・・・」
「その方がいいだろ。こういう場所でやったらバチが当たるかもしんないけど、初詣だし特別に・・・」
龍之介の手が私のコートの中に入り込んできた時、お腹が鳴ってしまった。
つられるみたいに龍之介もお腹を鳴らしている。
「・・・ぷっ」「あは、はは・・・」
思わず見つめ合って笑ってしまった。
そして、屋台に行く理由が出来たので、胸を張って龍之介の手を引っ張っていく。
「今度は私のわがまま聞いてよ。順番だからね」
「ああ嫌だ、気が進まない。もう嫌だ、帰りたい」
アパートに戻ったのはお昼過ぎだった。
「うぷ、苦しい・・・」
「そりゃそうだ。色んな物を食えば当たり前だ」
神社から15分くらいは歩けたんだけど、だんだん気分が悪くなって、遂に動けなくなった。
なので仕方なく龍之介に背中を借りる事にした。
遠慮なく重いと連呼してきたので、途中から一回言うたびにつねってあげた。