昏い森−黄昏B−-3
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漆黒の闇、或いは混沌。
妖が住まう昏い森は、夜の力を借りてますます不穏な空気を増長させている。
その森から、一層濃密な気配を纏わせた一匹の狼が現れた。
夜空に冷たく光る月のような見事な毛並みの獣だった。
「・・・月読。よくも抜けぬけと俺の前に現れたものだな」
爛々と輝く瞳の奥の仄暗さは、恐らく狂気。
「今まで待ったんだ。もう贄は諦めたらどうだ?」
対峙する梟は相変わらず飄々としており、その態度が一層、森羅を激昂させる。
「何が待っただ。待たせたんだ。月読、お前にな。あんな複雑な呪で俺を縛りやがって。この代償は大きいぞ。分かっているな」
「・・・やめとけ。お前じゃ役不足だ。黄昏が泣く」
月読の言葉に森羅は絶叫した。
「知ったことか!俺は伴侶が欲しい。その為に覇者となったのだ」
「愚かだな、森羅。お前はお前に添う者が欲しいだけで、黄昏自身を望んではいないだろう」
奇妙な沈黙の後、森羅は吐き捨てるように暗い瞳で告げた。
「・・・五月蝿い。・・・お前を殺して、娘を貰う」
月読はやれやれと頭を振ると、獣の姿に戻り翼を羽ばたかせた。
「・・・贄のもとで随分と妖力を蓄えたようだが、お前の力はまだ俺には及ばないぞ。・・・月読、お前は娘の伴侶にはなれないのだ」
森羅がそう言うが早いが、両者は影のように素早く飛ぶと交差した。
森羅は梟の喉笛に喰い付こうとしたが、梟が森羅の左目を鋭い爪で一閃したため、些か狙いは外れ、肩口を噛み千切った。
梟の羽からおびただしい血が吹き出し、雪のように白い羽を真紅に染めた。
森羅も左目から頬にかけてが焼鏝を押し付けられたように熱い。