投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

昏い森の最初へ 昏い森 19 昏い森 21 昏い森の最後へ

昏い森−黄昏B−-2



暁は風日によく似ていたが、きりりとした眼差しは賢そうで月読を思わせた。


村の男との子どもなので、贄の定めを逃れているのではないかと思ったが、暁の瞳の奥に昏い炎が揺れているのを見て、黄昏は落胆した。


この子のために何が出来るだろう―。

森羅はまだ、黄昏のもとには現れない。

暁のつきたての餅のような頬を黄昏が指で優しく撫でると、暁はきゃらきゃらと声を上げて笑った。

月読が束の間忘れさせてくれたが、黄昏はどうあっても贄なのだ。

きっと、この夢のような毎日を捨てて、森羅の伴侶にならねばならないのだろう。

―いずれ。

その日が近いのではないかと、黄昏は薄く予感していた。



ある、とても閑かな夜だった。

妖たちの潜む森からは濃密な空気のみが漂い、遠吠え一つ聞こえない。

夜の帳には星々が散りばめられ、その瞬きが聞こえてきそうなほどだ。

5つになった暁は寝入りばなに、外出した月読を探して少しぐずったが、今は可愛らしい寝息をたてて眠っている。

黄昏は、暁の着物を縫っていたが、蝋燭が尽きたのを潮に床についた。

目を瞑り、夜のしじまに耳を澄ませていると、黄昏は次第に眠りに引き込まれていった。

夜半、黄昏が浅い眠りの縁をうろうろしていると、長い腕が黄昏をそっと抱き寄せた。

「・・・月読・・・?」

夢現に黄昏が起きようとすると、長い腕の主に布団へ引き戻された。

「・・・いい。寝てろ、小娘」

大きな手で黄昏の瞳を塞ぐ。潜めた声が常になく優しかったので、黄昏は言われるままに瞳を閉じたが、抗議の言葉は忘れなかった。

「・・・小娘って言わないでよ」

贄のせいか、確かに黄昏は三十路を越えた今も、十代の少女のような姿のままだった。

けれど孫娘まで出来た黄昏の呼び名を月読は改めない。

「・・・名前で呼んで」

憮然とした黄昏の声音に、月読はくすくすと笑って、長く美しい黄昏の黒髪を指で撫でるように梳く。

月読の指先が心地良くて、黄昏はまた眠りに誘われる。

「・・・そうだな。お前とまた会える日が来たら、そのときは名前で呼んでやる」

次第に遠ざかる意識の中で聞こえる月読の声が、漣のように穏やかで。

何処かへ行ってしまうの?という、黄昏の問いは声にはならなかった。

「幾度この魂が転じようと、お前と一緒がいい。・・・・黄昏」

眠りについた愛しき者に、自身の告げられなかった想いを静かに口付けに込めた。


昏い森の最初へ 昏い森 19 昏い森 21 昏い森の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前