第二話――魔人と聖人と聖女の王国-8
「本当に、ケネスなのか?」
「そう言ってんだろ?」
「すご、いな……もしや、昨晩の姿も変装か?」
「おうよ。本当の俺の姿はめっちゃ、男前だぜ?……まぁ、いまはそんな話しはどうでもいい。問題なのは、俺の泳がしていたペガススの密偵からの情報が最悪の展開を呼び寄せちまったようだ、ってことさ」
「ど、どういうことだ?」
戸惑うアリスの問いにケネスは呆れたように言った。
「どういうこと、ねぇ。おたくら、職務怠慢もいいところだぜ?んま、給金はもう貰ってねェけどな〜」
「しょくむたいま――ひ、姫様かっ?」
アリスはケネスの真意を悟ったと同時にエレナの姿を探した。
――どこにも、いない?先ほどまで確かに馬車に先行し、連れられていたのに……。
「動かないで頂きたいっ!親衛隊の諸君――そして、ゴルドキウス帝国『陸の波濤』魔導騎士団の諸君ッ!」
「っ?」
「あらら……だから、言ったのにー」
アリスとマデリーンは視線を走らせてエレナの姿を捜すが一向に見つからない。
そんな時、遥か遠くから張られた声に視線をやったアリスは目をむいた。
背後で嘲笑するケネスの言葉など、気にもならない。
なぜなら、主君――エレナが先ほど出迎えた男に刃を突きつけられていたからである。
「姫様っ――」
「動くなッ!」
「――。くぅ……」
男が剣を持つ手を僅かに動かした。
それだけでアリスも、マデリーンを含む親衛隊も皆、動けなくなる。