第二話――魔人と聖人と聖女の王国-7
「はい。ですが、この兵力は異常です。召集農兵も含めれば、目測ですが千はいます」
「彼奴らが進軍すればたちまち、アムシエル砦は落ちていただろうにな。姫様が囚われているという報は得られなかったのか?」
「――そんなこたぁ、ねぇ。砦には確かにペガススの狗が二人、忍び込んでいた。本国だってしっていたさ。間違いねぇよ」
「ッ!」
アリスとマデリーンは不意打ち気味の声に驚いて、その発声源を見た。
二人の顔が複雑なのは伝法の口調とはうらはらにその声が高く、若い女のモノだったからである。
そして、確かにそこにはひとりの若い女騎士が腕を組んで立っていた。
ニヤニヤと軽薄そうな笑みを浮かべる赤髪をセミロングに纏め、親衛隊の隊章が彫られた鎧を纏った騎士を、マデリーンはその双眸を針のように細めて睨むと言う。
「……貴様は、誰だ?親衛隊にそのような下品な面構えの者はいない」
「だろうね。俺も親衛隊のようなお上品な面構えをしたくはねぇし……くくっ」
そんな挑発的な台詞を受け、マデリーンは手に持つ銀槍『エンリコ』を強く握ったが、アリスにはこの言葉使いをする人物に心当たりがあった。
だが、ありえない。でも――、とアリスはおそるおそると訊ねてみる。
「もしや……ケネス、か?」
「んははっ。ご名答――よく、一発で分かったな。さっすがパスクの選んだ女ってか?」
そう言うとケラケラと女騎士――に扮したケネスは嗤った。
そんな姿に呆然とする二人の『本当の』女騎士。
変装などという次元ではない。
目前の女騎士を男だと思う方がどうかしている――そんなレベルなのだ。
声も容姿も雰囲気も、若い女のソレである。
さすがにその無頼な態度は騎士だと思えないが……。