第二話――魔人と聖人と聖女の王国-6
「えっ、と――アリスさんの想いなら、というところから始めますか?」
「パ、パスクっ?私は続けないぞ?」
「そんな……折角、良いところだったのに。パンに邪魔されてしまいました」
恨みがましく己が使い魔を睨むパスク。
パンは器用にも舌を出して挑発している。
まるで、無理にでもアリスの質問する機会を逸させようとしているようにも見えた。
――考えすぎ、か?
その時、ガタン、と馬車が乱暴に前進を止めた。
最初こそは親衛隊長マデリーンが御車を務めていたが、夜明け前に親衛隊の中でも馬の扱いの上手い者に代わっており、それ以降は快適な運行をしていたのだが……、とアリスは驚いて前方の幌の間から顔を出す。
「――ぇ?」
その目に映る情景に呆然と呟くアリス。
目の前には何十張りもの天幕が建てられていたのだ。
まるで――というか、軍の駐屯地そのものではないかっ!
アリスは剣が腰に差されていることを確認し、馬車から飛び降りるように下車した。
念のため、パスクは場車内に隠れてもらったが、アリス同じ考えだったのだろう、五台の馬車から十数名のエレナ親衛隊の騎士が出てくる。
「これは……どうしたというのだ?ペガススが国境に軍を置くというだけなら分かるが――」
その内のひとり、直属の上司であるマデリーン・ローゼンハーム親衛隊長がそのオレンジ色のショートヘアーをむしるように掻きながら話しかけてきた。
アリスはコクリと小さな顔を縦に振る。