第二話――魔人と聖人と聖女の王国-44
「――あ、の……アリスさん?」
「み、見るな……こんな、私は、う、うぅうぅぅ……」
情事を終え、服装も整えるとアリスはようやく自身の失態を思い出したのか寝台の端に座り込んでしまった。
膝を抱え、身を小さくし、まるで叱られた幼児のような姿にパスクは心の中だけで萌える。
さすがに口には出せないが……。
「だ、大丈夫ですよ、アリスさん。可愛かったですよ、アリスさんのアヘ――」
すぱん!
「がふぅ……」
「い、言うなぁああああああ!」
デリカシーのないパスクへと手近にあった枕を投げつけて黙らせるとアリスは涙目でそんな恋人を見つめた。
「こ、こここんなのではないのだ、わたしは、まだ、すこしは――」
「こんなって――私は良いと思いますよ?いや、コレ本心ですから二つ目の枕は放してください……本当に良いと思います。というか、嬉しいです。アリスさんはなんだってアリスさんです。私が『魔人』だろうが、『聖人』だろうが同じ『パスク』なのと同じようにね。しっかり者のアリスさんも、えっちぃアリスさんもアリスさんです!」
「その例えはどうかと……」
でも――、とアリスは微笑んだ。
そんな女聖騎士にして恋人へと『魔人』にして、『聖人』であるパスクはすっと近寄ると抱き締めた。
柔らかく、それでいてどこまでも騎士であるアリスがこのときばかりは、か弱い娘に思えてしまう。
きっと、本質はそうなのだ。
そして、自分はただの男である。
――それだけで、良かった。
「アリスさん……」
「パスク……んっ――」
アリスが目を瞑ったのを合図にパスクは腕の中の恋人へと唇を落とした。
十秒近く、ただ、触れ合うだけのキスをする。
互いの存在を確認するための接吻。
パスクは抱く腕に力を込めた。
アリスも答えるように身を寄せる。
不可抗力だ、その豊満な胸がパスクの胸板を押した。