第二話――魔人と聖人と聖女の王国-31
「『聖人』、でも……ですか?」
「ふっ……パスク。好物はあるか?」
「好物?しいて上げれば……蜂蜜がたっぷりと塗られたパンですかね?あの、ライ麦のヤツで――」
「なんだ?存外、甘党か?」
「ええ。まぁ……」
「ふふっ……ま、私も甘い物は好きだ。焼き菓子などあるだけ食べてしま――んんっ……話しを戻そうか。つまり、パスクはその、蜂蜜パンが身体に良いとか、頭が良くなると聞いたら、どうする?」
「はい?う〜ん…………どうもしませんね。好きな物は好きで、それだけです」
「ソレと同じだ、パスク。私のきみへの気持ちはソレだ」
「ああ……」
パスクは得心して頷くと、アリスへと熱っぽい視線を送った。
いつのまにか接近していたのだろう、二人の顔の間には大した距離はない。
アリスは自然と体温が上昇するのが分かった。
「わ、私も……なんだか、恥ずかしくなってきた……」
「ふふっ……」
「笑うな……んっ――」
アリスはムッと頬を膨らませると、そのまま顔の距離をさらに狭めた。
そして、ゆっくりと唇が重なる。
怪我しているため、パスクをソファーに押し付けるようにしてアリスは押し倒した。
男女の立場が逆転しているような気もするが、ソレはソレで新鮮だったので深く考えないことにする。