第二話――魔人と聖人と聖女の王国-30
「ぐ、くぅ……キ、キツイ…………アリスさんっ、苦しいです!」
「…………ふん」
「ああ、ごめんなさい。からかいが過ぎました!すみません、すみません、すみません――」
「――っと、コレくらいで良いか?」
「いえ、もう少しきつめに。そうしとけば、動き回る分には問題ありませんからね」
「ああ、なら――――コレくらい?」
「ええ、丁度いいです。コレなら最悪、また傷が開いても、当分は抑えてくれるでしょう」
「………………」
腹部の傷を包帯越しに撫でたパスクはそのとき、アリスが不満げな面持ちであることに気が付いた。
「あの……なにか?」
「……パスクは、もう少し――自分を大事にするべきだ。それは、もちろん、パスクのお陰で私も姫も親衛隊の皆も助かった。ベストな形ではなくても、まだ、リンクス王家を復興させることができる状態だ。でも、私はパスクだけに戦わせたくはない」
「アリスさん……」
己が名を愛しき男の口から呼ばれたアリスは濡れた瞳で見つめ返すことでソレに答えるとスッとパスクの頬に右手を寄せた。
――白い肌、肌理の細かい肌だ。
この下には血が通っているし、そして、間違いなくパスクは一人の人間でしかない。
「パスク――きみは私に恩義を感じているらしいが、私も同じくらい感じているんだ」
「はい。ですが、私がアリスさんの傍にいるのは別に恩だけでは――」
「ああ、分かっているよ。私も、その……愛している。きみと同じくらいにな。それはパスクが『魔人』でも『聖人』でも変わりのないことだ」