第二話――魔人と聖人と聖女の王国-29
「ふふっ――しかし、実際の話し、諜報、暗殺の類は女性の方が成功率は高いらしいですがね。ケネスが言っていました。ほら――彼って、女装が上手いじゃないですか……」
「ああ……」
アリスは頷く。
確かに、女性――特に若い娘が相手ならば誰でも多少なりは油断してしまうだろう。
パスクはアリスが合点いった様子を目に、続けた。
「それに――不安材料は消えましたしね。『魔界開門』は明日くらいには封じられるでしょう」
「そう、だったな。いくら近くに町村がないとは言え、いつまでも魔界への扉を開きっぱなしというわけにはいかない。その……なんといったか、門番の――」
「『魔鉱獣』ですね。ええ、あの魔界と化した砦を徘徊する八体の『魔鉱獣』を倒し、その体内に埋められた『玉珠』を破壊する以外にあの呪文を無効化する手立てはありませんから。
自分で言うのもなんですが『魔鉱獣』は強力です。高い身体能力、冷酷な思考回路、再生能力も並ではありません。
八体全てを倒すには大規模の兵を派遣しなければなりませんが――『死神』伝手に皇帝の耳に入るでしょうし、そうすれば帝国最強の近衛隊が向かうでしょう。安心です」
「加えて、帝国軍は疲弊もするしな――パスク。私は『死神』ではなく、きみを一番、敵に回したくないよ」
「それは……どういう意味で?」
「っ!いや、それはもちろん、一騎士としてだけでなく、私本人も一人の女として当然ながら――。…………、…………パスク。にやけているぞ?」
シドロモドロ、と言い訳するアリスだったが、パスクの顔を覗いた瞬間、自分がからかわれていたことに気が付いた。
ムッと唇を尖らせたアリスは傷に布を当てるときつめに――まるで、コルセットの如く――真新しい包帯を巻きつける。