第二話――魔人と聖人と聖女の王国-27
――彼の反応から見て、自分は今、相当硬い表情をしていたのだろう。
アリスはあわて、巻き取った包帯を畳むと作業を再開した。
「大丈夫――平気だ、平気!『聖騎士』を舐めるな?私がやるよ」
「いや、舐めてはいなっ――痛ぅ、っ」
「っ?す、すまない。パスクこそ大丈夫か?」
包帯の下に巻かれた血受けの布を取った瞬間、パスクの顔が苦痛に歪んだ。
アリスは焦りのあまり、背中を撫でてやるという意味のわからない行動を取ってしまった。
――なにをやっているんだ、私は?
咳き込んだわけではないのだ。
「すーはー、すーはー」とアリスは数回、大きく深呼吸をすると気を取り直して、乾いて固まってしまったパスクの血を濡れた手拭でふき取ってやる。
昼間の一件のせいで再び、傷が開いてしまったのかもしれない――かなりの出血量だ。
なのに彼はあの後、平然とフィル殿下と長々と何事か話していた。
――タフすぎる。
これでは、どっちが騎士か分かったものではないな。
アリスは胸中で自嘲的に呟いた。
それでも、手は休めない。
赤黒い血液を綺麗に拭いてやると白い腹部と肋骨の下辺りから腰骨にかけて負った、大きな裂傷が顔を出した。
奇跡的に――いや、パスクのことだからきっと、ギリギリでかわしたのだろう、内臓や太い血管類は無傷だったが、それでも、出血死やショック死をしてもおかしくない傷だ。
アリスはその傷に触れないよう、そっと拭いてやる。
一応、血は止まっているし、魔法治癒もしているから死ぬことはないだろう。昼過ぎからは順調に回復に向かっていた。
だが、それでも心配は心配だ。