第二話――魔人と聖人と聖女の王国-26
ここはペガスス王国第二の都市――アッセンデル。
ゴルドギウス国境から馬車で半日の距離に、王都ホワイトホースからは二日の距離に位置している。
しかし、貴族や教会の住まうホワイトホースに対し、ここアッセンデルは平民色が強い。
おそらく、商業的に見れば、王都よりも栄えているのだろう。
そんな大都市の最南端――町と大陸を横断する大河『サーラ』に挟まれるようにして建築された王族所有の城『デルダン』にパスクと自分――アリス・バハムントとエレナ王女率いる親衛隊は身を寄せていた。
入国時の無礼へのささやかな詫びと『聖女の末裔』エレナ、そして『聖人』のために――と城を丸々一つ貸し与えるとはペガスス王家は気前が良い。
そんな城の中でも有数の豪奢な客室がアリスとパスクの部屋だった。
――そう、『ふたりの』部屋なのだ。
アリスはパスクとなぜか同室になっていた。
いや、『なぜか』ではない。余計な気を回した者がいるのだろう。
誰かはわからない。容疑者が多すぎる。
――隊長か、ケネスか、はたまた親衛隊の若い奴らか……。
考えたくはないが、エレナ姫もこういう悪ふざけはやりかねないお人だった。
――いいや、違うな。
きっと、全員だ。
皆して私を弄んでいるのだ、きっと。
明日の朝食の席で気まずい思いをする私を見たいのだ。
アリスはそう結論付けた。
かなりの確率で間違いないだろう。
「…………あの?」
「む?」
「大丈夫ですか、アリスさん?お疲れのようですし、あとは誰かに頼んでも――」
気が付くと目の前でパスクが心配そうな顔をしていた。