第二話――魔人と聖人と聖女の王国-25
――なんだろう?これは。
パンは大きいといっても所詮は猫。それに対してこの天馬は馬の中でも大柄な部類に入るだろうに……なぜ、これほど、弱気なのだ?
おそらく、グレンの主――フィル姫も同じ感想を抱いたのだろう、情けなさそうに天馬をその吊り目の双眸に収めるとパスクへと向き直った。
「ん、まぁ……一応、貴公が『聖人』であるという証明はできた、ということだな。うん」
「申し訳ありません。私の使い魔――少々、気が荒いものでして」
「いや、私の愛馬こそ弱気でいけない。もう少し、しゃっきりとして欲しいものなのだが――」
それぞれの立場の証明たる『聖獣』だが、気苦労の絶えないのだろう『聖人』と『聖女』。
しかし、和解はできたようだ。
フィルが謝罪と同時に差し出した右手をパスクは握り返した。
――その直前、パスクに視線を向けられた気がしたが……気のせいか?
アリスは首を傾げたが、立ち上がろうとしたパスクがよろけたのを目にし、あわてて駆け寄り、肩を貸してやる。
男性にしては少し軽めの体重を感じ、アリスは『魔人』であり、『聖人』であり――恋人である魔導師の存在を再確認したのだった。
「あの……包帯なら、自分で巻けますけれど。最悪、ジーンにでも頼みますし……」
「む……私の介護は、不満か?」
「いえ、その……不満どころか、大変、喜ばしいことなのですが。そこは、やはり――気恥ずかしいというか……」
「い・い・か・らっ、脱げっ!ほらっ――」
パスクはアリスにうながされ、渋々と(しかし、どこか嬉しそうに)服を脱ぎ始めた。