第二話――魔人と聖人と聖女の王国-24
一方、フィルは舐めるように目の前の魔導師――服装は平民のそれだが――へと視線を這わすと背後に立つ聖獣『ペガスス』へと振り向き、訊ねる。
「グレン。彼は……確かに『聖人』なのか?」
すると、純白の天馬は爽やかな男声帯で答えた。
パンが雌であるように、聖獣にも性別があるのだろう。
グレンという名からしても、雄か。
「ああ、間違いないよ。そのリンクスのパン――パンクチュアリエームは『聖獣』で間違いない。まぁ、『聖人』の隣に『聖獣』がいるなんてのはきみたち、人間が勝手に言っていることだけれどね」
「ふぅ〜ん……グレン――グレンフェデリック!アンタがいっちょ前に真贋判定なんて、偉くなったものね。ええ?ポニー・グレン!」
すると、そんな天馬の足元から、名を呼ばれた赤猫が悪態吐く。
ビクンッ、と背に生えた羽を跳ね上げるペガスス――グレン。
先ほどよりも若干、小さな声量で答える。
「ポ、ポニーじゃない。もう『子馬』じゃないよ、僕は……」
「どこがよっ!ウジウジ、ウジウジ……大きな声で喋りなさい、木偶!その図体は飾りっ!?」
「ううぅ……ひ、酷いや、パン。百と十二年ぶりだっていうのに、きみは全然変わんないね……」
「ありがとー。女は変わらないってのが最高の褒め言葉なのー」
「うぅ……くうぅ…………」
この短い応対でこの二体の『聖獣』の関係が把握できた。