第二話――魔人と聖人と聖女の王国-22
アリスはおそらく、初めてケネスの言葉を完全に納得することができた。
だが、パスクは心外だったらしく、子供のように唇を尖らせて拗ねてみせる。
そんな上司へと粗野な笑みを浮かべる見た目だけは若い女を装っている正体不明の密偵。
場違いながらも、アリスは驚いた。
――パスクも、こんな表情をするのか。
相手が、ケネスだからか?
確実に判別できるわけではないが、おそらくケネスは魔導師ではない。
なんというか……雰囲気で分かる。
しかし、そんなケネスは魔導騎士団に属していた。
きっと、パスクが指揮していたからだ。
――このふたりの関係は、なんなのだろう?
上司、部下や仲間、友人といったものではない……と思う。
ならば――?
「……そ、そんなことよりも――我々の会話が終わるのを待っている方がいますよ。誰に用があるのかは知りませんがね」
パスクは最後の部分を吐き捨てるように言った。
その一言だけでパスクが『聖人』という立場を気に入っていないことが分かる。
視線の先にはすでに充分、視認できる高度まで滑空してきた『純白の』天馬騎士団。
ペガススの兵たちは上官の喪失と、それ以上の権限を持った新たな上官の登場に途惑いながらも整列していた。
その列の先頭へと天馬団が舞い降りた。
先頭の天馬が聖獣『ペガスス』――パンの身体に刻まれた紋様に酷似した金模様を、その例えるもののないほどに真っ白な肌に浮かべていた。
そんな聖獣に比べると後続する天馬らの肌は酷く黒ずんで見える。
個々で見れば、それこそ白馬といえるほどなのだろうに……。
そんな『聖獣』から降りた『聖女』。
スッと兜を取る。