第二話――魔人と聖人と聖女の王国-21
エレナを拘束していたペガスス兵はアリス以上に適応能力が低かったらしく、未だに呆けている。
それをいいことに(お転婆な)エレナ姫はその手を自力で逃れ、己へと走り寄る親衛隊たちの元へと同じく駆けだしていた。
丁度、パスクやジーンのいる辺りで合流することができた。
口々に言われる、己が身を案じる親衛隊たちの言葉にエレナは困ったようにはにかんだ。
「大丈夫ですよ、私の剣。ご安心を……。それよりも、パスクさん――いえ、パスク様。私のせいで、ご迷惑をおかけしてしまい……」
「止めてください、エレナ姫。私は所詮、『ただの』パスクです。私が『聖人』?――ならば、世の中の人間は皆、『聖人』になってしまいますよ」
「ですが…………。いえ、はい――貴方がそう言うのなら。パスクさん、ご迷惑をおかけしました」
エレナは言葉に詰まった。
いくら聖女の血を引くとはいえ、『聖人』その人には礼をつくさなけらばならない。
しかし、パスクの態度から『様』という敬称を嫌がっていることを察したのか、はたまた、パスクの強情さを悟ったのか、エレナは結局、これまで通りの呼称に戻した。
生気の欠片も感じられなくなった、名も知らぬペガススの男の躯をパスクは見つめると、言う。
「いいえ。彼の態度は兵士としては間違っていません。まぁ、やり方は極めて遺憾なモノですがね」
「くははっ――ソレをアンタが言うのか?」
アリスの背後にいつの間にか立っていたケネスが揶揄するように笑った。
――ああ。そういえば、パスクもエレナ姫を人質にとって自分たちを制圧したのだった。
確かに、パスクの言えた義理ではない。