第二話――魔人と聖人と聖女の王国-20
「貴様は、『魔人』であり、ゴルドキウスの兵だッ!それ以外の何者でもない!馬鹿者共が、敵の甘言に騙されるなッ!さぁ、討て……討つのだ。この『聖人』を語るふけい――」
――ヒュンッ!
「が、は……?ぁ……あぁ――」
流星の如く、天から降ってきた影に男は胸を貫かれた。
それは、槍だ。
騎馬兵が用いる、突撃用の円錐型の槍である。
己の胸を穿った、自身の太股以上の太さのソレを男は見つめ、目を見開き、そして――絶命した。
力失くした男はそのまま前のめりに倒れ、地へと伏す。
トサッ……、と乾いた音が木霊した。
「……………………っ!――な、なんだ!?」
アリスは事態の変化に付いていけず、たっぷり十秒は思考が停止していた。
それでも、なんとか現状を整理するとあわてて空を仰ぎ見る。
プカリ、プカリと白い雲が浮かぶ蒼天に黒い影が幾つか、陽光を背に飛んでいた。
鳥ではない。かといって魔獣や竜族の類でもない。
隣に立つマデリーンがそっと呟いた。
「ペガスス――『白の姫』か……」
「……え?」
「なんだ?知らんのか?――――ん?いや、そうか。アリスは知らなかったな。あの方は『ペガススの聖女』フィル王女。そして、聖獣『ペガスス』とペガススの無識種を駆る、彼女の親衛隊――『純白の』天馬騎士団」
「むしきしゅ?」
「……。アリス……ソレは知っとけよ。まぁ、後でおまえの『聖人』様にでも聞け。それよりも行くぞ?」
「は……はい!」
アリスは上司の台詞の主語に疑問符を浮かべたが、すぐに主君の存在を思い出し、マデリーンの後を追った。