第二話――魔人と聖人と聖女の王国-19
「私自身は別に……語ってもいないし、語りたくもありませんがねェ?」
「だ、だまれっ!」
「ええ、ええ……黙りますよ。ですが、それは貴方も同じ――ようですが?」
「なんだとっ?」
「周りを御覧なさい?」
「――――っ?」
男はパスクの言葉どおり、視界を左右に揺らすと絶句した。
顔を真っ青にさせる。
ペガスス勢の中にも――いや、『聖獣八ヶ国』の者は皆そうであろうが、相手に『聖人』だと名乗られて、それでも刃を向け続けられる者は少ないのだ。
当惑の表情で仲間とどうしたものか、と視線で相談し合うペガススの兵たち。
彼らはすでに、パスクへの確固たる敵意は喪失していた。
そして、ペガスス軍を率いる男はその瞬間――自分に味方がいなくなったことに気が付いた。
自身でも心の底では理解している。
目の前の『魔人』は『聖人』だ。
もしかしたら、違うかもしれないが、ソレに近しい存在であることは間違いない。
だが、同時に認めてはいけないのも理解している。
認めれば、同時に己の破滅が確定するからだ。
だから、叫んだ。
勢いに任せて始末してしまえば、後はどうとにでもなる、と思った。
それが、己の運命を決定付ける行動だとは知らずに。
己の最後の言葉になるとは知らずに。