第二話――魔人と聖人と聖女の王国-18
「……いや……そんな、まさか!?」
「その、ま、さ、か。アンタらが利き腕を切り落として渡せなんて、ド外道なことを強制した男はね――『聖人』よっ!列記とした、現『リンクスの聖人』パスク・テュルグレ!」
「なっ!?」
パンの言葉に周囲は硬直した。
『聖人』『聖女』――これには幾つかの意味がある。
まずは、先も述べたとおり、『聖獣八ヶ国』の八人の建国王の尊称。
二つ目は慈悲深く、偉業を成した高位の司祭に冠さられる二つ名。
そして――三つ目は『聖獣八ヶ国』の建国王たちと同じく、特別な才能を有し、数奇な運命を担う男女のことだ。
三つ目の聖人、聖女の傍らには必ず幻獣が立つといわれている。
歴史上、幾つものその転換点に、その聖人たちは現れ、そして、民を救ったという。
ならば、たしかに幻獣『リンクス』のパンクチュアリエームが傍立つパスクは確かに『聖人』だと言えた。
なにせ、『使い魔』なのだ。これ以上に深い絆はそうそうない。
それにエレナの先祖であるリンクス王国の初代女王――聖・ヴィクトリアは高位の魔導師であったという。
若輩ながらも魔導師として高い実力を持つパスクはリンクスの『聖人』の資格がある。
――いや、待て。伝承では『民を救う』とあったはずだ。
しかし、パスクはリンクス王国を『滅ぼした』ぞ?
――それでも、いいのか?
アリスだけでなくほとんどの者がそう、最終結論を出した。
伝承の『聖人』と目前の『聖人』には差がありすぎる、と。
それでも、実際にパスクに救われたという実感が、多少なりともあるエレナ親衛隊は無理矢理にでも納得することができた。
だが、ペガスス勢はそうはいかないだろう。
「〜〜っ!せ、せせせ聖人の名を語る不届き者がぁっ!」
エレナを隣に立つ護衛の騎士へと引き渡すとペガススの男は歯をむき出し、肩を怒らせて叫ぶ。
しかし、それも仕方がない。
もし、ここで認めてしまえばパスクへと危害を加えようとした自分は『聖女』の末裔を人質に『聖人』を脅し、傷つけようとした稀代の不敬者となってしまうからだ。