第二話――魔人と聖人と聖女の王国-17
――いや、『ある、ない』の次元ではない。
あれは、伝承に残る聖獣『リンクス』の風貌そのままであり、リンクス王家の家紋ではないかっ!
それはこの大陸、この地方に住まうすべての者が知っている姿であり、紋様であった。
ふと隣を見るとマデリーンが、珍しくも呆けたように口を半開きにさせていた。
マデリーンだけではない。
パスクの背後に立つジーンも、幌馬車から飛び降りた格好で固まっているゲルハルトやパトリシアも皆、似たような表情をしている。
もちろん、自分も。
「ッ――。――――んん〜〜っ!ああっ!やっぱ、良いね。この姿は……こう、魔力やら活力やらが漲ってくるわ」
身体を逆への字にし、目を細めたパンは最後に身体を震わせると言った。
人間で言えば伸びをする格好に近いのかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
いま問題なのは――、
「なぜ、聖獣『リンクス』が、この男に……『魔人』に!?」
全員の脳裏に浮かんだ疑問を、代表してエレナを人質に取ったペガススの男が叫んだ。
――そうだ、なぜだ?なぜなのだ?
アリスは心の底ではその解答が導き出ていた。
しかし、神に等しきその存在をそうそう認められないし、口にするのも憚られた。
「ぷっ……くくくっ……なぜ?もし、分からないんだったら相当なアホか、不信心者ね」
吹きだし、実に人間味のある笑いをするリンクス。
……。たとえ、聖獣だと分かったところで腹立つことには変わりなかった。
だが、ペガススの男はそんなことを気にする余裕はないようだ。
顔を小刻みにゆらして言った。