第二話――魔人と聖人と聖女の王国-16
「どういうことだ?」
「ん、まぁ……一応、先に言っておきます。八年間、黙っていて、すいません」
「なんだと?」
「いいから、黙ってなっての!さぁさぁ、お立会いっ!刮目せよっ、ってねっ!」
ジーンは聞き返すが、それはパンの一喝で制された。
ほとんどの者が疑問符を浮かべる中、パンは十歩ほど歩みを進め、丁度、パスクたちとエレナを人質に取る男たちの中間地点で立ち止まった。
何十の瞳に収められた白猫の魔獣の周囲が、まるで高熱でも発したかのように歪んだ。
幾重もの風が彼女の身体を包み込む。
いや、吹きすさぶ突風を吸収しているかのようにも見える。
「――っ!?」
誰も声は出さなかったが、それでも何十人もの人間が息を吸い込んだのは分かった。
なにせ、アリス自身も目を開ききり、肺一杯に空気を取り込んでしまったからだ。
その驚愕の由来はパンである。
パンの身体が、まるで血の雨でも浴びたかのように真っ赤に染まっていくのだ。
それは数ある色の中でも純粋に『赤』としか表現し得ないほどの美麗で、はっきりとした赤色だった。
白い毛並み一本一本が真っ赤に変色していく。
それだけではない。
額に、背中に、尾に、脚に――、蛇が這うように金色の光線が染み出したかと思うと、それは文字となり、模様となった。
アリスはその白猫――いや、赤猫の姿と、そしてその身に刻まれた黄金色の幾何学模様に見覚えがあった。