第二話――魔人と聖人と聖女の王国-14
――こんなこと言うと自身でも違和感は覚えるのだが、自分は殺しすぎた。
帝国の兵としてではなく、おそらく、パスク――いや、国に捨てられた名もない男の私怨で、だ。
だから、良い。利き腕の一本など安いくらいだ。
――でも、アリスさんは悲しそうな顔をする。怒りに満ちた顔をする。
唯一、それだけは、良くないが……。仕方がない。
ジーンは囁くように言った。
「……許せ、パスク」
「ははっ――許すも何も、恨みなどはありません。コチラこそ、妙な役ばかり押し付けてしまい……申し訳ありません」
「なら、これでトントンだな?」
「はい」
「…………行くぞ」
ジーンは自分が斬るべき点を凝視する。
小麦一つ分もずれることは許されない。
しっかりとやる――友を傷つける者の最後のプライドだ。
柄を握る手に力を込める。
両足でしっかりと大地を踏みしめ、背筋と胸筋を緊張させる。
後は、振り下ろすだけだ。
しかし、ソレを実行しようとしたとき、高い声に突然、制止された。
「――待ちなさいよっ!このバカ共っ!」
「ッ?」
冷たく張りつめていた空気が一瞬にして弛まされた。
パスクとジーンを見つめていた、その場にいるすべての者がその声主へと注目する。
大きな、白い猫だ。
たしか、『魔人』の使い魔である。
ペガススの、エレナを人質に取る男は密偵からの情報を脳内で総合して、その闖入者――闖入猫の正体を突き止めた。