第二話――魔人と聖人と聖女の王国-13
「……良いのか?」
「あ、ちょっとだけ待ってください。あらかじめ、止血をしますので――」
「そういう意味では……ちぃっ」
腰紐を解くと右腕へ巻きつけ始めた上司にして友人へとジーンは小さく舌打ちをする。
だが、アリスでもパスクの強情さは知っているのだ、長い付き合いだろうこの男が知らないはずがなかった。
止められるものならば、なんとしても止めたい、と溜まらなく不愉快そうな表情をしながらも、ヌラッと長剣を抜き、上段に構える。
「……、…………。っと……よし、準備万端です」
「斬った後、どうする?治癒するか?」
「さぁ?それはアチラにお聞きしてみないと――」
そのパスクの言葉に合わせて、ジーンがエレナを脅す男へと目を向ける。
男は確認のためか、はたまた、興味のためか当初の半分ほどにまで距離を詰めていた。
そんな男へ、「もし、約束を違おうものならば――許さない」と、明確な意思を込めたジーンの眼差しが突き刺さる。
「ぅ……さっさと、やれ」
「そんなに血が見たいとは……ペガススという国が侮られますよ?」
「なっ――」
「なんてね。さぁ、さらに注文が増えないうちに――どうぞ、ジーン。ぱぱっと……」
膝立ちのパスクは肩越しに剣を振りかぶったジーンへと言った。
――コレで良いのだ。
パスクは胸中で独りごちる。