第二話――魔人と聖人と聖女の王国-12
――抑えろということか?
でも、なぜ……?
マデリーンやパスクならば、まだ分かる。ジーンやゲルハルトも……まぁ、分からなくもない。
だが、ケネスが自分を止める理由が分からなかった。
そんなアリスを放っておいて、パスクとペガススの男との交渉は続く。
「いいでしょう。私のこんな腕一本で解決できるならば実に安い買い物です」
「い――いけませんっ、パスクさん!まだ、話し合えば……」
エレナは刃を突きつけられながらも、気丈に叫ぶ。
だが、パスクは小さく笑うばかりだ。
そして、ゆっくりと、諭すように告げる。
「エレナ姫。貴女は誤解なされているようですから、お教えします。私はアリスさんに恩義を感じておりますし、愛しています。ですが――姫。貴女も私の恩人なのですよ?この世で、たった二人、ね」
「それは……すでにお聞きしました」
「では、この命救った恩人へのささやかな恩返しはお気になさらずに……」
「そ、それとこれとでは話しが違いますっ!」
「お分かりいただけない、と。いえ、だからこそ姫は――。ジーン、来なさい」
最後のエレナの叫びをパスクは無視する形で部下の名を呼んだ。
パスクやアリスの乗っていた馬車とは違う馬車から漆黒の軽鎧を身に纏ったジーンが姿を現した。
――彼も、確か平民に扮していた筈だが……。
そうアリスは(半ば、現実逃避のような)疑問を脳裏に浮かべたが、すぐに答えが思い浮かぶ。
生真面目そうな風貌の男だ、ペガススの関を過ぎた時点で不測の事態に備え、着替えていたのだろう。