第二話――魔人と聖人と聖女の王国-11
「そうしたいのも、やまやまなのですが――どうも、貴方は反抗的ですからね」
「ふっ……。つまり、一介の貴族だろう貴方如きが王族であるエレナ姫に剣を突きつける理由が武装もしていない敵兵への恐怖――として、受け取ってよいのでしょうか?」
「っ……貴様ァ」
嘲るようなパスクの台詞に男の顔が真っ赤に染まる。
隣でマデリーンが、背後ではケネスが吹きだしていた。
アリスも笑いこそしないが、いい気味だとは思う。
しかし、エレナへと突きつけた短剣を持つ手さえ振るわせる男の次の言葉に辺りに衝撃が走った。
「――『魔人』ッ!。敵意のない証明として、その右腕を渡せッ!」
「なっ………………なんだとっ!?」
アリスは男の言った内容を理解するまでに数秒を費やした。
――いま、なんと言った?
『右腕を渡せ』だと?つまり、利き腕を切り落とせ、ということかっ!?
武装解除して投降しようとしている敵兵へと危害を加えるのか、ペガスス騎士はッ!?
憤りのあまり、アリスは眼が真っ赤になるかのような錯覚を覚えた。
奥歯を強く噛み締めると柄に手をかける。
しかし、ソレは背後に立ったケネスと当のパスクの言葉によって封じられた。
「――それで、本当に姫を解放していただけるので?」
「ふふん。それだけではない……エレナ姫や親衛隊方の身の保障はします。もちろん、貴方の部下もね」
――なにが、『身の保障』だ。
そんなものはとっくにされているし、貴様の判断で変わるような次元のモノでもないッ!
アリスはその怒り狂う視線を長剣へと延ばした右手を捕らえるケネスへと向けたが、この男(現在の見た目は娘)は真剣な眼差しで見つめ返すと首を横に振る。