雨の中-プロローグ-1
真っ暗な空から零れ落ちる冷たい雨は地面を濡らし、空気を冷やしていく。
「…………はぁ……」
ビルとビルの間の細い路地。暗く静かなその道にしゃがみこむ影から小さな息が漏れる。そんな中、複数の足音が響く。
「――そっち行け!」
慌ただしく駆けるその音に混じって、人の声が聞こえてくる。
「おいっ!」
目の前に現れた自分以外の影に、しゃがみこんでいた人物が顔を上げた。眼前にはスーツを着たガタイのいい男が怪訝な顔で見下ろしていたのだ
「お前ッ 何でこんなところにいる!?」
腕を掴み上げられ、立ち上がらせられる。それに反発するように腕を振り、スーツの男を睨み付ける。
「離せ! 何のことだよっ」
「今の通り魔……お前か?」
「は?」
不可解なことを言われ、黒いコートを着た少年はスーツの男を睨み続けるがスーツの男は怯まずに見つめ返してきた。
「俺は警官だ。良いから来い! 署で話を聞く。浮浪者みたいな格好でうろうろしてんのが悪い」
男は身分証を見せ、抵抗を見せる少年を引き摺る様に歩き出す。
「離っ」
「きゃああっ!」
雨の中、響き渡る女の声。スーツの男の動きが止まり、腕の力が緩んだ隙に少年が手を振り払って駆け出した。