雨の中-プロローグ-4
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向かい合うように座った明希は青年に問い、買ってきたパンを食べながら本に目を落としていた。
「いちろー? ジロー? さぶろ?」
「…………」
明希が適当に口にする名前に少年は全く何も答えない。
「アキラ? カズマ? サトル?」
「…………」
「ナツメ? …………えーと」
他には…と考える明希に面倒臭そうに溜め息を吐くと、少年はボソッと呟いた。
「……カイキ……」
「え?」
唐突に答えてくれた名前を聞き逃し、明希はパッと顔を上げて聞き直す。
「…………カイキ」
「カイキ、くん?」
初めて自分のことを話してくれたクリーム色の髪の少年に明希は満面の笑みを向けた。
「そっか。カイキくん、か」
カイキはスッと立ち上がると、明希の傍に膝を突く。
「あんた、何考えてんの? 女の部屋に男入れるのってどういう意味か解ってるの?」
カイキは明希の肩を強く掴むと押し倒す。