俺のすべてが朱に染まる-3
「あ、ごごご、ごめんなさい!」
トラブルを避けるために、謝罪の言葉を上げる。このときのポイントは決して相手の顔を見ないことだ。適当に頭を下げておけば、下々の人間は優越感に浸ってすぐに忘れるのだ。まったくとり頭だ。
「くすくす……」
誰かの笑い声に俺は顔を上げる。見ると目の前には電柱が立っていた。そこには「痴漢注意!」と赤で書かれた看板がある。
俺は電柱に頭を下げていたというのか?
それよりも誰だ! 俺を嗤ったのは!
声のほうを見ると、赤いランドセルを背負った女の子が一人。そいつはいまどき珍しく、赤いヘアバンドでセミロングの髪をまとめていた。
チェックの柄のジャンバースカートに白のブラウス。まるで少女マンガの優等生みたいなそいつは、くりくりした可愛らしい目で俺を笑っていた。
「何がおかしい!」
俺はすごんで見せた。ガキの頃から大人を嗤うなんてロクな奴じゃない。
そうだ。これは大人がすべきしつけなんだ。社会にでてからは誰も教えてくれない、貴重な勉強をしてやるんだ……。俺はなんて立派な大人なんだ!
「や、やめてください、離して、誰か、だれか〜〜!!」
「だ、黙れ!」
せっかく教育をしてやろうというのにこのガキ、喚きやがる。とにかく人を呼ばれてはまずい。最近はつまらないことですぐに警察沙汰にしたがる人権団体がいるからな。
とりあえず口を手で塞ぎ、小脇に抱えることにする。軽い。きっと親からも虐待を受けているのだろう。まともな飯も食っていないからこんなに軽いんだ。しょうがない、家に連れ帰って腹一杯飯を食わせてやろう。
親切な俺様は可愛そうな女の子を部屋へと連れて行ってあげたのだ!
***
部屋に女の子を連れ込むのは初めてだ。だが恥ずかしがっては居られない。親による深刻な虐待を受けているだろう、この子を助けてあげなければならないからな。
「お、おうちに帰して……、うえええん……」
可愛そうに、親にそう脅されているのだろう。小さな子は親に頼るしか生きる道がないから、どんな劣悪な環境であったとしても帰りたがると聞く。だが、それはできない。大人は子供を守る義務があるからな。
「ばばあ、飯!」
とりあえず飯を食わせよう。詳しい話は落ち着いてからだ……。
***
コンビニ弁当を出すも女の子は食わない。外で食ったことがばれたら折檻をされるのだろう。無理に食わせるのはやめる。
「あ、あの……」
「なにも言うな」
ようやく泣き止んできたと思ったら、なんだ、お礼の言葉か。まあそうだろう。虐待をする親から守ってあげたのだ。当然だ。
だが、気になるな。虐待の痕が見当たらない。
普通なら腕や足にタバコの痕や痣なんかがあるはずなのに……、いや違うな。最近の百対は見えない場所を狙うとかいう。
つまり、服の下だ。
児童相談所に連絡するにしても、証拠があったほうがうごきやすいだろう。
とにかく証拠を集めるため、俺は女の子に手を伸ばし……。
「いや、やめて! 触らないで!」
抵抗が激しくなるが、おそらく服の下は虐待の痕があるのだろう。
年少とはいえ女の子、醜い痣のある身体を見られたくないのだな。
気持ちはわかる。だが、それではこの子は救われない。
俺は心を鬼にして服を脱がせる。抵抗をするようだから、腕を捻り上げ、頬を思い切りはたく。しょうがないんだ。そうしないと虐待の証拠がみつからない。大事の前の小事だから、これぐらい許せ。
女の子の上半身を裸にさせたのだが、どういうわけか虐待の痕が見つからない。
おかしいな。何故だろう。俺の予想ではきっとあるのだが。
すすり泣く女の子はしきりに「帰して」というが、そうはいかない。きっと何かあるはずだ……。